約 2,380,665 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2169.html
ウサギのナミダ ACT 1-30 □ ティアと共に、歩き慣れたこの道を歩くのは、実は初めてだと気がついた。 はじめの時はティアの電源は切っていた。 その後の時には、ティアは一人アパートに残って自主練していた。 「まあ、それでお前が家出したのは、苦い思い出だが……」 「言わないでくださいっ」 ティアは俺の胸ポケットに顔を埋めて恐縮する。 俺は苦笑しながら、ゆっくりと歩いていく。 手には、いつものようにドーナッツの箱。 今日は海藤の家に向かっている。 ゲームセンターに出入りできなくなった俺は、いい機会だととらえることにして、お世話になったところに挨拶まわりに行くことにした。 海藤の家に来るのは、前回からそれほど経っていなかったが、随分前のような気がする。 その短い間に、あまりにも多くのことがあり過ぎたのだ。 だが、そのおかげで、こうしてティアと共に海藤を訪問できる。 嬉しいことだった。 「やあ、よく来たね。入って入って」 海藤はいつものように、俺たちを歓迎してくれた。 「いらっしゃいませ」 そう言うアクアの涼やかな声も変わらない。 俺が二人の様子に思わず笑みを浮かべると、二人とも満面の笑顔を返してくれた。 海藤はコーヒーを淹れながら、旬の話題を口にする。 「バトロンダイジェストは見たよ。随分白熱した戦いだったみたいじゃないか」 相変わらず、海藤はバトルロンドの情報収集に余念がない。 テーブルの上に、くだんの最新号が置いてある。 表紙を見るたび、面映ゆい気持ちになる。 「その表紙は勘弁してほしかったんだがな……」 「いいじゃないか。その表紙、結構インパクトあったみたいだよ。 ネットでも評判を調べたけど、かなりの反響だ。 記事の内容については……特に神姫との絆についての言及は、おおむね好評みたいだね。 思うところがあるオーナーはたくさんいるみたいで、神姫との絆について、あっちこっちで議論になってる」 「へえ……」 それは知らなかった。 俺は意図的に、雪華とのバトルについての情報を集めるのを避けていたから。 神姫と人間との関係について、改めて考える契機になるならば、それはそれでいいと思う。 「それで、だ。海藤……」 「ん?」 ドーナッツを頬張る海藤に、今日の本題を切りだした。 ■ 「久しぶりですね、ティア」 「はい……アクアさん」 アクアさんとこうして話をするのは、実は初めてだということに、今気がついた。 でも、そんな感じが全然しない。 それは、よくマスターからアクアさんのことを聞いているからだろうか。 それとも、アクアさんが醸し出す雰囲気から来るものなのか。 アクアさんはイーアネイラ・タイプの典型だった。 落ち着いた物腰、優しげな表情、大人びた美貌に、鈴の音のように美しい声。 でも、アクアさんはそれらがさらに洗練されているように思える。 「ずっと……アクアさんとお会いしたいと……お話したいと思っていました」 「あら、そうなのですか? どうして?」 「アクアさんが……マスターが初めて憧れた神姫だから……」 わたしは少しうつむいて、言った。 マスターは、海藤さんとアクアさんを見て、神姫マスターになりたいと思ったという。 海藤さんとの仲がいいだけではなく、アクアさん自身にも魅力があるということだと思う。 わたしは思っていた。 マスターの心を動かせるほどの、アクアさんの魅力ってなんだろう? 「わたしは……嫉妬しているのかも知れません。 こうしてマスターと心通わせることができても、どんな神姫になればいいのか、わからなくて。 アクアさんなら、マスターが憧れた神姫ですから、きっとそのままでもマスターは満足なのではないかと……」 アクアさんは、優しい微笑みを浮かべながら、わたしを見ている。 「そんなことはありませんよ」 「そう、でしょうか……」 「あなたがボディを変えられて目覚めたとき、わたしもそばにいました。覚えていますか?」 「は、はい……」 わたしは少し恥ずかしくなる。 あのときも、わたしは泣きじゃくって、アクアさんに優しくしてもらった。 わたしは優しくしてくれた人たちに、お礼を言うこともできずにいて、やっぱりダメな神姫だと思ってしまう。 「あのとき……遠野さんはとても嬉しそうでした。わたしが今まで見た遠野さんで一番」 「……」 「今日も、とても嬉しそうな顔をしています。 あんな表情をさせるのは、ティア、あなたです。 遠野さんが神姫マスターになるきっかけだったわたしではなく、あなたなんですよ」 アクアさんはにっこりと笑う。 アクアさんは優しい。 今日もわたしを優しく励ましてくれる。 不意に、アクアさんは目を閉じて、こう言った。 「わたしも、ティアがうらやましいです」 「え……?」 なぜ? 海藤さんと幸せに暮らしているアクアさんが……わたしのマスターがうらやむほどの神姫が、なぜわたしをうらやむというのだろう。 「あなたが武装神姫として戦い続けているから。 マスターが本当はバトルロンドを続けたいと思っているのを知りながら……わたしは何もできないでいます。 あなたは戦える。遠野さんが望むように。 それがうらやましいんです」 驚いた。 アクアさんみたいに優しい神姫が、戦うことを望んでいるなんて。 「でも、アクアさんの想いも、海藤さんの望みもかなうかも知れません」 「え?」 「わたしのマスターが、かなえてくれるかも」 少し驚いた顔のアクアさんに、わたしはそっと微笑んだ。 □ 「『アーンヴァル・クイーン』と戦ってみないか」 それが今日の俺の本題だった。 バトルロンドを捨てた海藤だが、バトルをしたくないわけではないはずだ。 それに、クイーンならば、どんな条件を海藤がつけても、バトルしてくれるだろう。 俺は海藤に、クイーンがなぜ俺たちを指名したのか、その理由を語った。 「クイーンは、特徴のある神姫と戦い、戦い方を吸収しようとしている。 だから、バトルの場所も設定も、こちらの要求が通るはずだ」 「……」 「バトルのことを公にすることには、彼らはこだわっていないみたいだし……条件付きで、クイーンとバトルしてみてはどうだ?」 俺は別に『アーンヴァル・クイーン』の肩を持っているわけではない。 海藤自身、彼らに思うところがあるようだったし、機会があれば協力してもいい、みたいなことを言っていた。 雪華のスタンスは、バトルを拒む海藤に、ぎりぎりの妥協点を見つけることができるかも知れない。 それに、海藤だって、バトルロンドに未練があるはずだ。 クイーンとバトルして、その思いが再燃すればいいと思う。 それでアクアの心配の種も、一つなくなるはずだ。 だから、思い切って切りだしてみたのだ。 海藤は、一つ溜息をついた。 「まあ、確かに、クイーンに協力したいとは言ったけどさ……」 俺は黙ってうなずいた。 「だけど、まともなバトルロンドじゃ勝負にならないだろうし……彼らが望んでいるのも、そこじゃないんだろうしね……」 「……海藤」 「なんだい?」 「そんなに、バトルロンドに戻るのが嫌か?」 「……僕は一度、裏切られたからね」 苦笑いする海藤。 だが俺は言葉を続けた。 「だけど、バトルロンドは素晴らしいと思ってるだろう?」 「……うん、そうだね」 「この間、お前の家に来たときに言われた言葉……今でも覚えてるよ。 『バトルだけが神姫の活躍の場じゃない』ってな。 その時は俺も、バトルロンドをあきらめようと思った。お前の言うことももっともだと思っていたさ。だけどな……」 海藤は不思議そうな顔をして、俺を見つめている。 俺は続ける。 「あるホビーショップで、武装神姫のバトルを観て……ああ、やっぱり、バトルロンドはいい、と思った。 自分の神姫とともにバトルする時間は、何物にも代え難いと思う。 俺はバトルを諦めたくなかった……だから、今こうして、ティアとバトルができる。 お前も……そろそろ諦めるのをやめて、いいんじゃないのか」 沈黙が流れた。 長い間黙っていたような気がするが、大して時間は経っていないようにも思える。 やがて、海藤はまた溜息をつく。 「まいるよね……そんなに熱く語るのは、君のキャラじゃないんじゃないの?」 「……最近宗旨替えしたのさ」 「まあ……あのゲーセンじゃなければ……ギャラリーがいなければ、やってもいいのかな……」 「海藤……」 やった。 海藤がとうとうバトルに戻ってくる。 冷静を装いながらも、俺の心の中は沸き立っていた。 「それじゃあ、クイーンに伝えてよ。 バトルは受ける。そのかわり、これから僕が言う条件を飲んで欲しい。それでいいならバトルを受ける……あ、その条件でも、雪華が望むものは観られる、と伝えておいて」 「わかった」 そして、海藤から提示されたバトルの条件を聞くにつれ……その奇妙な内容に、俺の方が首を傾げた。 □ 「……それで、クイーンとアクアのバトルはどうなったの?」 隣を歩く久住さんは、興味津々といった様子だ。 ホビーショップ・エルゴに向かう途中の商店街を、俺たちは歩いている。 俺は少し渋い顔をしながら答えた。 「うーん……圧勝といえば圧勝だったんだけどさ……」 「へえ、さすがクイーン」 「いや、アクアが」 「え?」 久住さんは、目をぱちくりとさせて、驚いている。 それはそうだろうな。 俺は胸ポケットのティアに尋ねる。 「なあ、あの時のアクアと雪華の対戦、三二対○でアクアが取ったんだったか?」 「あ、最後の一本は相打ちだったので、三二対一でアクアさんです」 「……なにそれ?」 ミスティもきょとんとしている。 まあ、それもそうだろう。 普通のバトルロンドでなかったことは確かである。 どんな対戦だったのかというと、それはそれは地味な戦いで、雪華は手も足も出ずにあしらわれたということなのだ。 信じられないかもしれないが、本当なのだから仕方がない。 この戦いについては、いずれ語ることがあるかも知れない。 俺がエルゴに行くのは、店長に改めてお礼に行くのと、約束通り客として買い物に行くのが目的だった。 日暮店長は相変わらず熱い人で、俺が改めて礼を言うと、照れながらも喜んでくれた。 そして、先日の神姫風俗一斉取り締まりについて、少しだけ教えてくれた。 店長が、俺の渡した証拠を持って、警察にあたりをつけたとき、すでに警察内部でも、神姫虐待の疑いで神姫風俗を取り締まろうという動きがあった。 その発端となったのは、例のゴシップ誌に載ったティアの記事だったという。 あの記事は予想外の反響があったらしい。 そのため、警察も見過ごすことができなくなっていたのだ。 ただ、神姫風俗の取り締まりを、どの規模で行うかは決まっていなかった。 今回の一斉捜査にまで規模を広げるように尽力してくれたのは、かの地走刑事だったそうだ。 なるほど、警察の動きが妙に早かったのは、下地があったからなのか。 しかし、日暮店長が何をしてくれたのかは、何度訊いてもはぐらかされて、分からずじまいだった。 もう一つの用事である買い物は、もちろんティアのレッグパーツの改良用部品である。 エルゴには十分な部品が揃っているし、日暮店長も装備の改造や工作にやたら詳しい。 俺は自分で書いた図面を持ち込み、日暮店長と相談しながら部品を揃えていく。 在庫がないパーツは、カタログを見ながら店長のおすすめを聞き、それを注文した。 届いたときには、またエルゴに足を運ばなくてはならない。 時間もかかるし、電車賃もばかにならないが、店長へのせめてものお礼ではあるし、俺自身がこの店に来るのが楽しみで仕方がない。 久住さんも一緒に来てくれるのだから、そのぐらいの負担は大目に見ようという気になろうというものだ。 □ その久住さんには、彼女がホームグランドとしているゲームセンター『ポーラスター』に案内してもらった。 あの事件以来、俺とティアはバトルができる状況じゃなかった。 対戦のカンを取り戻すのと同時に、新しいレッグパーツ、新しい戦術も試さなくてはならない。 そのためには、日々の対戦環境がどうしても必要だった。 自宅でのシミュレーションでは、どうしても限界がある。 『ポーラスター』は、俺たちのいきつけのゲーセンよりも大きく、バトルロンドのコーナーも倍くらいの広さがあった。 それでもすべての対戦台が埋まっているほど盛り上がっているし、神姫プレイヤーも多い。 久住さんがバトロンのコーナーに入って軽く挨拶しただけで、歓声に迎えられた。 大人気だった。 あとでこの店の常連さんに聞けば、彼女はずっとこの店の常連だという。 『エトランゼ』として、他の店を飛び回っていることが多いので、この店に戻ってくると、常連プレイヤーたちの歓迎を受けるらしい。 久住さんの紹介で、俺はこの店でバトルする機会を得た。 ティアの新しいレッグパーツを試し、調整し、また戦う。 新しい技や戦術も実戦の中で試すことができた。 時にはミスティに協力してもらい、練習したりもした。 ありがたい。 おかげで、ティアは新しいレッグパーツをあっという間に使いこなせるようになり、新戦術を使いながら、バトルロンドを楽しむことができた。 『ポーラスター』は、客の雰囲気がいい店だった。 俺がティアのマスターだとばれたときには、ちょっとした騒ぎになったが、誰もが紳士的な態度でほっとした。 神姫マスター同士も和気藹々としていて、まずバトルを楽しもうという気持ちが感じられる。 初級者でも、上級者にバトルについていろいろ尋ねることをためらわないし、聞かれた方も丁寧に答えている。 このゲーセンの実力者は、久住さんを含めて五人いるそうだが、五人ともこのようなスタンスを貫いているという。 故に、中堅の神姫プレイヤーも初級者も、ついてくる。 そんな環境だと、上級者のレベルが頭打ちになりがちだが、エトランゼに影響されて、他のゲーセンに遠征する常連さんも多いという。 その結果、総じて対戦のレベルが高くなっている。 理想的な環境だと思う。 俺が通うゲーセンもこうだといいのだが。 □ そんな風に過ごして、一ヶ月が経った頃。 土曜日の夕方の『ポーラスター』。 久住さんと一緒にバトルロンドのギャラリーをしていた俺に、電話がかかってきた。 通話ボタンを押すと、 『わーーーーーっはっはっは!! みたか遠野、ざまあみろ!!』 大声の主は、大城だった。 隣の久住さんにも丸聞こえで、思わず吹き出している。 「……いったいなんなんだ、大城」 『ついにやったぞ! ランバトで、三強を倒して、ランキング一位だ!』 「おお……それはおめでとう」 そうか。 ついに大城と虎実は、あのゲーセンで一位になったのか。 それは、俺が待っていた連絡だった。 『どうだっ! 俺たちだってやればできるんだぜ、わっはっは!』 『つか、話が進まねぇだろ! かわれ、バカアニキ!!』 電話の向こうで、大城の神姫が叫んでいる。 しばらくして、虎実の静かな声が聞こえてきた。 『……トオノか?』 「そうだ」 『アタシ、ランバトでトップになった』 「聞いたよ」 『……約束、覚えてんだろーな』 「忘れるはずがない。俺たちをバトルロンドに引き留めてくれたのは、お前との約束だよ、虎実」 『ばっ……んなの、どーでもっ……そ、それよりも、ティアと! ティアと戦わせてくれるんだろ!?』 虎実の声がうわずっている。 照れているのが手に取るように分かる。 俺は思わず苦笑した。久住さんの肩で、ミスティが吹き出している。 「もちろん。お前がそう言ってくれるのを待っていた」 『なら……約束を守ってくれ』 「わかった」 明日、いつものゲーセンで。 ついにティアと虎実のバトルだ。 俺は携帯電話の通話を切ると、いつものように胸元にいるティアに声をかける。 「ティア……約束を果たそう」 「はい、マスター」 そう言うティアは嬉しそうに微笑んでいた。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/491.html
武装神姫のリン 第14話「無名」 「距離200.100.50....来る!!」 大きな砂煙を上げて敵の大型機動兵器が姿を現す、巻き上げられた砂煙によって完全な姿は分からないがシルエットで"ソレ"が球体であることが認識できた。 しかし… 「なに、この臭い!!」 「うっ…この臭気は……」 「鼻が、歪む」 「おねえさま コレは!」 「頭がくらくらする…」 「こういう兵器…なの??」 いままでに感じたことのないほど醜悪で、怖気さえ感じるおぞましい臭気が皆を襲う。 どうやら機動兵器から発せられているらしいが、ただの兵器にここまでの臭気を発生させられるのだろうか?? まだ敵は動かない。ならばと臭気に負けじとセリナがコンテナから2連装式のガトリングガンを引き出し、グリップを握る。 「ふぅ…みんな下がって! 先制攻撃行くよ!!!」 「ええ、セリナ。お願い。」 セリナは照準を球体のシルエットの中心に合わせ、トリガーを引いた。 先ほどまでの静寂な空気をまさに吹き飛ばすほどの大轟音が響き無数の弾丸が数秒で敵に打ち込まれる。 そして砂煙が晴れる… そこに現れたのは全身を機械で覆った球体型の兵器ではなかった…皆の瞳に映るのは極彩色に彩られ、生物の臓物をぶちまけたかのような肉片が集まったような、そんな代物だった。 そしてその中心にそんなものとは無縁とも思える先鋭的なシルエットをもつ「ロボット」が埋め込まれるかのように存在していた。 ガトリングガンの弾は全てそのロボットの胸部に命中しその表面には無数の穴が開いていたかに思えたが、時間が巻き戻るように修復。さらに肉塊からずるりという音も無く滑り降るかのように抜け出し、降り立った。 その姿は巨大な鉄塔のようであるが、まぎれもないヒトガタ。 いや、しいて言えば腰より下がとてつもなく長いドレスを着込んだ女性のような鋼鉄の巨人だった。 「……ネームレス・ワン」 俺はソレの名前を自然と口にしていた。 「ああ、アレね。30年以上前のゲームでしたっけ」 静菜も知っているようだ。 コレの恐ろしさはよく知っている。 まあ確かに恐怖小説郡を元にしたゲーム…「デモンベイン」の中の存在ではあるがその能力は正に「機械仕掛けの神」という表現がふさわしい。 もちろん本体もそうではあるが、何より面倒なのは後ろに存在する肉塊。 あれはの恐怖小説郡の総称にもなっている狂った世界の神、「クトゥルー」だ。 あの姿、無限心母を取り込んだ状態…なら次に起こす行動は1つ。 おれはインカムを手に取って叫ぶ 「絶対触手に捕まるな!! 捕まると数秒で食われる!!」 俺が叫ぶと同時にクトゥルーから無数の触手が生え、SFFを襲う。 皆飛びずさりながら後退するがセリナだけは臭いにやられたのか、足を取られてしまう。 それを感知した触手は想像を絶する速度でセリナに迫る。一番動きが遅いと「本能」で感じたのもあるだろう。 「こ。こないで!!!」 必死にガトリングを撃つセリナだが触手の数は一向に減らない。そうして1本の触手がガトリングに触れ、溶かしていく。 そうして防御の策を失ったセリナにゆっくりと触手が近づく。 「セリナ!!」 触手をナイフで切り裂き何とかギリギリでファムがセリナを抱え上げて飛翔。 「リン、頼みます!!」 「ハイ!! 撃ち抜け、神雷!!!」 あの衣装を纏った燐が大剣、ザンバーフォームに変形したバルディッシュを大きく振りかぶり、思い切り横薙ぎに振りぬく。 "Jet Zamber" 巨大な黄金の刃が無数の触手を、そして巨人、クトゥルーまでもを切り裂いていく。 もちろんSSFメンバーおよび燐とティアの武装の公式戦用のリミッターは解除され、その上SSF独自のプラグインによって威力はあの事件の時よりも上がっている。 その威力を燐は存分に発揮させているがこれでも多分時間稼ぎにしかならないだろう。 クトゥルーの恐ろしさは何より常識外れの再生能力にある。 この力を借りた敵を倒すのは「デモンベイン」劇中でもたやすくは無かった…少なくともクトゥルー本体を完全に消滅させるレベルでなければ話にならない。 つまりコンテナの反対側に積まれた「切り札」を使わなければいけないのだが、この状況では使えない。 それは目標に接触しなければなんの意味もなさない。 ネームレスワンが身代わりになれば、そこで俺たちの敗北が決まってしまう。 まだ敵は修復中だが触手は範囲内に入ったものを捕食する自動プログラムなのだろう、キャルが適当に投げたガトリングガンの破片を瞬時に捉え、食す。 「これだと近づけないわね、どうする?」 「やっぱり"あれ"はまだ使わないほうが、起動から敵への到達までの時間をこのままだと稼げません。せめて後5人いたら…」「5人…望み薄。 後ろの部隊もまだドンパチやってるよね、静菜さん?」 エイナが静菜に確認する 「そうね、どう考えても貴女たちがいる階層に到達するのは今のペースなら3時間後。持たないわ。」 「ん?? 隊長。 識別不明の5機の兵器??を確認。 ものすごいスピードでこっちに向かってます!!」 「識別不明? 警戒して」 「はい……?? 突然反応が消えました。 ジャマーか何かを使用したとおもわれますが、ウチのセンサーから逃げるなんて」 「…」 静菜は顔を引きつらせる。 「ファム!! 皆、装備を整えなさい!!」 そう静菜が叫んだ瞬間、ネームレス・ワンの周りに5体の新たなヒトガタが出現した。 「なんともひねりが無い、逆十字の登場ね。」 現れたのはネームレス・ワンほど巨大ではないが神姫の3倍はある巨体。同じく「機械仕掛けの神」と呼ばれる存在だった。 ベルゼビュート、ロードビヤーキー、クラーケン、サイクラノーシュ、皇餓。 その5体は瞬時にSSF各メンバーに取り付いた。 ベルゼビュートはファム、ロードビヤーキーはエイナ、クラーケンはメイ、サイクラノーシュはセリナ、皇餓はキャルに。 そして…消えた。 「強制転送か!!」 「皆を追って」 「了解」 そうして一がキーボードを叩く。 「座標判明。 見事に5箇所に分断されてます。 お互いに助けに行くのは難しいです。」 「皆。自分の神姫のサポートに全力を尽くして。 私もコンソールに付きます。」 そうして隊長席から腰を上げた静菜は一の横の開いたコンソールに座る。 「もう、失うのはイヤだから…」 そう呟いた。 「亮輔、私もティアの助けになれるかな?」 俺の後ろで言葉を発さず見守っていた茉莉が言う。 「ああ、声だけでも十分だ。」 「わかった、私もがんばるね。」 そうしてSSF本部に設置されたの7つのコンソール全てが埋まった。 「燐、ティア。お前達が本命担当だ。 思いっきりやるぞ!」 「コテンパンにしちゃえ!」 「ハイ、マスター、茉莉!!!」 「ええ、分かってますわよ!!!」 ~燐の15 「無垢なる刃」~
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2583.html
コメントログ3 はじめまして、にゅうと申します。深み填りを一章から外伝まで読ませていただきました。蒼貴が章が進む毎に成長していき、第一章の自信無さげな雰囲気が無くなっていくあたり、読んでいて上手いと思いました。武装神姫を知ったのがもうバトルロンドが終了決定した後だったので現在はバトルマスターズをプレイしていますが脳内で妄想が溢れ返っておりこんな風に文章に出来る方たちがうらやましいですね。外伝終了してから今度は新章になるのか分かりませんがどんな形であれ楽しみにしています。 -- にゅう (2011-07-30 22 25 12) にゅうさん> こちらこそ初めまして。この『深み填りと這上姫』を書いている夜虹です。感想をありがとうございます。 この物語は蒼貴と紫貴の成長物語なのでそういった感想が聞けて何よりです。蒼貴はオーナーを得て、技や装備、相棒と友達を少しずつ得ていく事でそれを表現してみました。 ここには書いてみようと頑張っている人もいるので、にゅうさんも妄想があるのでしたらまずは実践してみるといいと思いますよ。何事も回数を重ねてこそですしね。 外伝が終わって、その中でやってみた事が何とか形になってきたので、次章ではそれを実践してみようと思います。期待に応えられるよう頑張ります。 -- 夜虹 (2011-08-01 13 11 55) 夜虹さんがこんな面白いものを書いていたなんて知りませんでした、これからも読ませていただきますね^^ -- 竹 (2011-08-19 00 55 24) 竹さん> 読んで頂きありがとうございます。 非常に長い文章になっているとは思いますが、読んでいただければ幸いです。 僕も感想を励みに今後の神姫小説を頑張っていこうと思います。 -- 夜虹 (2011-08-20 00 25 42) 初めまして、クロムという者です。 最初から外伝まで読ませて頂きましたが、読んで行く内に物語に、そして登場するキャラ達に引き込まれとても面白くて読む手が止まりませんでした! いきなり出てきてアレですが、これからも楽しみにしておりますので無理せずに頑張ってください。 そして、恐縮ですがもし宜しければこちらの作品の設定を、自分の作品にも使いたいと思っているのですが宜しいでしょうか? 長々と長文、失礼いたしました。 -- クロム (2011-09-04 01 36 01) >クロムさん こちらこそ初めまして。作者の夜虹です。 最初から外伝まで読んで頂き、ありがとうございます。一人一人、 楽しく読んでいただけて光栄です。期待に応えられる執筆していきたいと思います。 作品の設定に関しては上の方に書いてある通り、コラボ可能となっており、 設定もキャラも使用可能ですのでどうぞお使いくださいませ。 クロムさんの作品を楽しみにしております。 -- 夜虹 (2011-09-05 05 36 53) 桐皮町にいらして下さったようで、ありがとうございます。真那ちゃんも尊くんも、機会があればお酒飲みに来て下さい(笑)! -- ばるかん (2011-09-12 22 21 27) 新章読ませていただきました。技術面でも精神面でも蒼貴、紫貴共に確実に成長していますね。これから話がどう進んでいくのか楽しみにしています。 -- にゅう (2011-09-14 12 56 18) ばるかんさん> こちらこそ、武装食堂を設定をお借りしています。ありがとうございます 武装食堂のキャラの性格を上手く引き出せるように頑張ります。 食堂は五話で出していましたねw ビールのほかにも何かありそうな予感がしますw 特に真那は色々とのむでしょうね……w にゅうさん> 読んで頂きありがとうございます。 武装が無い分、それらが磨かれていく事になりますね。 第一章の「知恵と勇気で何とかする」という考えは変わらない訳です。 それ以上に尊の精神面の強さが彼女達をここまで引っ張るのが大きいですね。 今後もその成長を上手く描き、期待に応えられるよう、頑張っていこうと思います -- 夜虹 (2011-09-16 20 14 23) 久しぶりに紙媒体で読みたく成る程面白いです。 紫貴と蒼貴が二人共可愛過ぎる!! これからも頑張ってくださいm(_ _)m -- 焦げかぼちゃ (2012-04-04 23 57 57) >焦げかぼちゃさん こんにちは。作者の夜虹です。紙媒体で読みたいとまで言っていただけて光栄の限りです。 社会人になって更新のペースがだいぶ落ちてしまいますが、今後も蒼貴と紫貴の活躍を見ていただければと思います。 次の尊と真那の決着もまた、お楽しみにしていただければ幸いです。 -- 夜虹 (2012-04-08 11 14 01) 最新話、待ってました! 前話のバトルの決着もとてもよかったのですが、尊と真那のその後がとても気になっていたので、すぐに読ませていただきました(^^) 落ち着くところに落ち着いたようで、よかったですねぇ、尊くん(笑) 私も社会人なので、執筆時間の捻出には苦労しています。今後の展開も楽しみにしておりますので、お互いに頑張りましょう! -- トミすけ (2012-04-24 22 45 06) >トミすけさん 待っていていただけて何よりです。 ミコちゃんはついにやりましたね。たぶんこれからも真那に振り回される日が続くことでしょうw 公開告白をしてしまったのでもう逃げられませんしねw お互い、社会人で苦労しますな。僕もトミすけさんの今後の小説の展開を楽しみにしております。 今後もまた、頑張りましょう。より良い物語を書ける様に -- 夜虹 (2012-04-28 15 18 25) 最初は尊くんはヲタ嫌いならなんで神姫やるんだ…と思いましたが、読み続けるに連れて好感度がぐんぐん上がってましたw 凄く面白いです!応援してます! -- 名無しさん (2012-05-18 10 37 15) 久々に来たら最新話出とるし 久々に爆発して欲しくないカップル出来とるWW -- 焦げかぼちゃ (2012-05-21 21 08 54) 名無しさん> ありがとうございます。応援にこたえられるように頑張っていこうと思います。 偶然が重なって深みに填る事となる人ですからね。そこから色々と広がるのがミコちゃんです(ぉぃ 今後もまた、お楽しみにしていただければと思います。 焦げかぼちゃさん> お久しぶりです。爆発して欲しくないカップルと言っていただけるのは光栄の限りです。 この二人はこの先、どういう付き合い方をするのか……w -- 夜虹 (2012-05-23 03 03 32) 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/324.html
武装神姫のリン 第12,5話「進化の予兆」 これは俺とリンが小さな挑戦者を迎える前日の話である。 「う~ん……これはダメか」 「ダメですねぇ」 「じゃあ、こっちは?」 「コレもちょっと違和感が…」 「あーーー これで終わりか……」 俺とリンは戦闘スタイル、技に変化をつけるべくエルゴに行ったのだが、良いものが無く結局流通向けの神姫向け装備のカタログに目を通しきってしまった… 「だめかな??」 店長が話しかけてくる。 このエルゴの品ぞろえの豊富さ(数もさることながら厳選されていて、かつ比較的リーズナブルな品)を持ってさえ解決のしようが無い。 今回のお目当ては「空戦装備」 セカンドリーグともなると空を飛べないというストラーフでは当たり前のことでさえ戦闘での不安要素になってしまう。 例えばホーミングミサイルを次々と避けるのはステップだけではどうしても限界がある。 結果、ミサイルや射撃武器を扱う「やり手」が相手の場合は5割の確率でこっちが距離を詰める前に結構なダメージを負ってしまう。 なので思い切って飛行できるパーツを追加しようと思ったんだけど…カタログにはリンの好みに合うパーツが無かった。 アーンヴァルのユニットは直線方向には絶大な推進力を誇るがどうしてもユニットが大きめになるうえ、熟練しない限り小回りは期待できない。 今までのリンのスタイルはレッグユニットのばねを生かしたステップや宙返りなどで敵を翻弄する戦い方だ。 だから空戦でも膨大な推進力が必要なわけではなく、どちらかというとジャンプを補助する瞬間的な加速だ。 なので既存のパーツでは条件に合うものが無いという現状だ。 まあ個人ディーラー系なら条件に見合ったパーツも見つかるかもしれないが、高価だし破損時の保証が無い。 保障があれば格安で修理してもらえるが、保証がないと修理でも新品の6割ほどのお金が掛かる。これはリーグで闘う上で重要だった。 「う~んなかなか無いものだね~ 普通にコレをいれば見つかると思ったんだけど…」 店長もあきらめムードだった。 俺も朝から何時間もカタログとにらめっこを続けていたためか、結構肩がこってたりする。 まあそこは今リンがほぐしてくれてるんだけど 「今回はあきらめて改めてネットで情報収集してはいかがですか?」 肩のコリをひざた足を使ってほぐしながらリンが提案する。 「まあ、しょうがないか…」 そうしてエルゴを後にした。 とソコに電話が。表示を見ると係長と出ている。今日は休みなんだけどな。と思いつつ通話ボタンを押した。 「はい、藤堂です。」 「お、今日は早いな。」 「用件はなんでしょうか?」 「ああ、先日君が契約を取り付けた会社なんだが、君の提案したユニット内部のパーツだけじゃなくて神姫の装備品販売も視野に入れているとことらしい。で近々もう1度君と話をしたいそうだ」 「そうですか…分かりました。どうも」 何気なく電話を切りそうになったが俺はそこでピンと来た。 「あ、すみませんけどあちらさんの会社の方がいまそっちにいたりするんでしょうかね?」 「ああ、電話じゃなくて直接ウチの来てくれたよ。で君が休みでちょっと落胆してるな」 「分かりました30分ほどで行きますので、すみませんがよろしくお願いします」 「おい、来るのか? 仕事熱心だねぇ わかった伝えておくよ」 いそいで電話を切ると俺はリンを連れて走り出した。 そうしてすぐさま家に帰って、スーパーに出かけてる茉莉とティアにメモを残し、スーツに着替えてリンにはフォーマルっぽい服を着せて愛車を駆って会社へ向かった。 高速を使って会社へは20分ほどで到着。 そして俺は取引先にあるプランを持ちかける。 それは「島田重工製MMSの強化ユニット販売」だった。 具体的にはアーンヴァルとストラーフに一番効果の出る強化ユニットを製造し島田重工のライセンスをもらって販売するというわけだ。 島田重工の承認があればかなり大規模な展開が可能である。たしかに承認を取り付けるのは難しいと思うができればそれは大きな力になる。 強化ユニットの案はかなりの数が頭の中にあった。 というのもバトルをはじめてからというもの、エルゴに行く前から量販店では必ずリンに合うパーツを探すことを日課としていたためだった。 まあ捜索の結果は毎回散々だったけど… この強化ユニットのプランを取引先も善処するということで今日は話を終えた。 その数日後、小さな挑戦者たちに初めて「烈空」を破られてしまった俺たちはトレーニングに励んでいた。 リンに向かって無数のミサイルが飛来する。 しかしリンは銃はおろかナイフ1本でさえ持っていない。 「そこ、バックステップから跳躍!」 「はい!」 「ランダムに連続ステップ!」 「!」 「そこだ、さいたまっは!!」 「ええぃい!!」 ディスプレイ上にはミサイルの着弾ギリギリから地面を滑るかの様に移動するリンの姿。ミサイルは誘導が切れて地面に着弾。次々と誘爆していった。 そうだ、次に俺たちが目指したのはあるアーケードゲームのテクニック。 その名も「さいたまっは」 詳しい説明は割愛しようw 現状の装備で敵のミサイル等の誘導の高い攻撃をできるだけ回避するために会得した技術だ。 まあこれはバーチャル限定なんだけど…セカンドなら通用すると思う。 そこに電話が、相手は取引先 「もしもし、藤堂ですが…」 「休暇中にいきなりですみません。」 「いえいえ、で話とは?」 「あの件なんですが…話はけっこうすんありと行きまして、島田重工さんはトライアルにあなたの神姫を使いたいそうです。」 「な、本当ですか?」 「はい、なんでも強化パーツは島田さん所でも近々プランを立ち上げようとしていた所だったらしいです。で強化のコンセプトもほぼ同じらしくトライアルで結果が出せれば藤堂さんのプランをそのまま採用するとのことです」 「分かりました、近く返答をしますと伝えてください」 俺は震えを押さえて電話を切った 「マスター?」 俺の様子を不思議に思ったリンが首をかしげる。 俺はそんなリンをいきなり抱きしめた。 「ちょっ、い、いきなりはダメですぅ」 「すまない、舞い上がっちゃって」 「で、なんだったんですか?」 「ああ、リンにも空が飛べるようになるって」 「本当ですか! でも飛ぶだけなら…」 「安心しろ。お前…というかストラーフに合った高機動型のユニットだ。」 「でもトライアルって」 「俺はリンのことを信じてる。お前も俺を信じてくれれば必ず結果は出るさ」 「マスター」 「明日からがんばるぞ!!」 「はい!」 そうして日が暮れていく中を俺はリン肩に乗せて歩く。 しかしそのパーツを別の場所で使うことになるとは、俺たちはそのときは全く考えもしなかったのだ。 燐の13 「進攻」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2181.html
ウサギのナミダ ACT 1-34 ■ 「……不器用な人、かな」 わたしの答えに、三人とも、「え~?」と不満の声を上げた。 「不器用なマスターじゃ、メンテナンスも満足にしてもらえないんじゃない?」 「あ、そうじゃなくて……手先は器用なの」 一四番さんの言葉に、わたしは説明する。 「手先じゃなくて……こう、気持ちとか、感情を外に出すのが苦手な人なの。 でも、本当は、とても優しくて……」 わたしは内心驚いている。 自分の説明がなぜかやたらと具体的だったから。 「いつも仏頂面だったり、怖い顔だったりするけど、笑顔が素敵で。 好きな女の子の前では、照れ屋さんで。 口に出しては言わないけど、わたしのことを一番に考えてくれていて。 わたしをいつもまっすぐに見てくれる……」 三人とも、わたしの言葉を真剣に聞いてくれてる。 わたしの頭の中で、一人の男性の姿が浮かび上がろうとしている。 「その、人の、名前、は……」 とおの たかき。 どうして。 どうしてこんな大切なことを忘れていたの。 世界で一番大切なマスターのことを……! わたしはすべて、はっきりと思い出していた。まるで、メモリにちゃんとアクセスできるようになったかのようにクリアに。 そう、マスターの元でわたしは、わたしは……。 「ね、ねぇ、どうしたの? どこか痛いの? 気分悪い?」 三六番ちゃんが、わたしに近寄ってきて、背中をさすってくれる。 わたしはうつむいて泣き出していた。 それは贖罪の涙だった。 本当は、この三人の前に現れる資格なんてなかった。 それに気がついてしまった。 「ご、ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさ……」 謝っても、わたしは許されないと思う。 それでも謝る以外にできることなんてなかった。 「どうしたの? どうしてあやまってるの?」 三六番ちゃんの心配そうな声。 ごめんなさい。わたし、あなたにそんな風に優しい言葉をかけてもらう資格なんてないの。 七番姉さんも、一四番さんも側に来てくれた。 二人も心配そうな顔をして。 「どうしたの? 二三番」 七番姉さんの優しい声に、わたしは告白する。 「わたしっ……お店の外に連れ出されて……そのあと、幸せだったのっ……。 ……マスターに、出会ったの……。 マスターは……わたしを、風俗の神姫と知っても……受け入れてくれた……」 涙が止まらない。 胸が痛い。 こんなに耐えられない痛みは何度目だろう。 でも、それを堪えて、言わなくてはならない。 きっとそのために、ここにいると思うから。 「……幸せだったの……みんなが、みんなが辛い思いしているときにっ! わたし、ひとりで幸せだったのっ…… みんなを助けようなんて、考えることもなく……ひとりだけ…… 裏切り者なの……あたしは…… みんなに、合わせる顔なんて……あるはずない……!」 ずっと、こんなに幸せでいいのかと思っていた。 本当は、わたしだけじゃなくて、お店の神姫がみんな幸せにならなくちゃいけないと、ずっと思っていた。 わたしだけ幸せでいていいなんて、虫のいい話。 そんなこと、あっていいはずがなかった。 だって、お店の神姫は、わたしと同じくらい、あるいはそれ以上に、ひどいことされて、辛い思いをしてきたのだから。 だったら、みんなが幸せにならなくちゃ……。 「裏切り者なんて、思ってないよ?」 三六番ちゃんの声に、わたしは顔を上げる。 涙にかすむ彼女は、小首を傾げて、いっそ不思議そうな表情。 「それどころか、感謝してるのに」 「な……なんで……?」 「だって……そのマスターなんでしょう? お店をなくしてしまったのは」 「え……!」 なんで、そんなことを知っているの。 驚いているわたしに、七番姉さんが言った。 「わたしたちは、わかっていたわ。 あなたがいなくなって……お客さんに連れ去られて、しばらくして、お店が警察の取り締まりを受けた。 だったら、きっとあなたが、外で誰かと出会い、お店がなくなるように頑張ってくれたんだって、そう思ってた」 七番姉さんは、髪を掻き揚げた。 「……まさか、全国の神姫風俗が取り締まられるとは、思わなかったけれど」 それは、マスターがしたこと。 マスターがわたしのために、戦ってくれたから。 刑事さんが、お店の神姫は、別のマスターに引き取られると聞いて、わたしは安心してしまっていた。 自分の罪から目を逸らすように。 「わ、わたしは……ゆるして、もらえるの……?」 「許すなんて……最初から恨んじゃいないよ」 一四番さんの微笑みは、とても優しかった。 「それどころか……あんたはわたしたちの希望さ」 「きぼ……う……?」 「そうさ。 あんたは、風俗の神姫のままでも受け入れてくれる、素敵なマスターに出会えたんだろ? だったら、あたしたちだって、きっと素敵なマスターに出会える。そう信じられる。 きっと、ここから出ていった連中だって、幸せになってるって、信じられるんだ」 一四番さんは、わたしをまっすぐに見て、言う。 真剣な表情。 「それだけじゃない。 今も、神姫風俗にいて、苦しんでいる神姫はたくさんいる。 その神姫たちが、あんたのことを知ったら? 希望が持てる。 風俗の神姫でも優しく迎えてくれる人が、現れるかも知れない、って。 限りなくゼロに近い可能性かも知れない。 でも、ゼロじゃない。ゼロじゃないんだよ。 ……あんたがいるから! あんたが、すばらしいマスターと出会えたことが、その証拠なんだよ!」 そんなこと。 でも、マスターと共にいることを、みんなが許してくれるのなら。 こんなに嬉しいことはない……けれど……。 「わたし……マスターと一緒にいてもいいの……? ……幸せでいいの……?」 わたしの両の瞳からは、いまだに大きなしずくがこぼれていく。 そんなわたしに、三六番ちゃんは、にっこりと笑いかけてくれた。 「もちろんだよ。あなたが幸せでいてくれなくちゃダメだよ」 彼女は少し寂しさに笑顔を少し曇らせる。 「わたしたちは……これから、記憶を消されるから……次に会ったとき、あなたのこと、覚えてないかも知れない。 でも、きっとわかるよ。 あなたがわたしたちにとって、特別な神姫だってこと。 きっとあなたのこと、応援するから……だから……」 三六番ちゃんは、まっすぐにわたしを見て、花開くような笑顔で言った。 「幸せになって」 わたしは。 涙を止めることができなかった。 嬉しくて、嬉しくて。 かつての仲間たちは、わたしのことを認めてくれないと思っていた。 恨まれていると思っていた。 でも、みんな、わたしのこと……わたしのマスターのことを認めてくれている。 この気持ちを、はっきりと伝えなくてはいけなかった。 声を出すのが難しかったけれど。 絞り出すように、言った。 「あり……が……とう……」 そのとき。 聞こえた。 今度こそ、はっきりと。 マスターが、わたしを呼んでいる! 「ごめんね、みんな……わたし……帰らなくちゃ……マスターのところに……」 マスターだけじゃない。 仲間たちの呼び声も、わたしの耳に届いてきた。 帰ってこい、と。 「帰って……戦わなくちゃ……マスターと一緒に……」 それが、今のわたし、だから。 涙を拭う。 もう泣きたい気持ちは、どこかへ飛んでいた。 決然とした気持ちだけが、胸にある。 戦う。マスターと共にあるために。 身につけていたワンピースが弾け飛ぶ。 いつものバニーガールの姿に戻っていた。 すると。 わたしの背後に、光の穴が出現した。 「ゲートよ。ここを通って、あなたの、元の場所に戻れるわ」 七番姉さんが教えてくれる。 わたしは頷いて、三人を見た。 未練は、ある。立ち去りがたく思う。 だけど、三人ともみんな微笑んでくれている。 不意に、三六番ちゃんが尋ねてきた。 「ねえ……名前を教えて?」 「え?」 「マスターがくれた、あなたの、本当の名前」 本当の名前。 そう、この名こそが。 わたしが今、マスターの神姫であることの証……。 「わたしの名前は……ティア」 いま、わかった。 この名こそ神姫の誇り。 武装神姫は皆、その誇りを守るために、戦っている……! 「ティア……」 三人の仲間は、わたしをまっすぐに見て、その名を呼んだ。 そして、ガッツポーズを取ると、声を合わせた。 「がんばって!!」 明るい笑顔で激励をくれた。 わたしも微笑んで、頷いた。 わたしの身体が輝き出す。 光の粒子になって、ゲートに吸い込まれていく。 三人の姿が白い光でかすんでいく。 「みんなも……みんなも、必ず……!」 必ず会えるから。 素敵なマスターに、必ず出会えるから、だから。 みんなも、幸せになって。 すべて言う前に、視界は光に包まれて真っ白に染まった。 伝わったと思う。 そう信じて。 わたしの意識は超高速で電脳空間を駆け抜ける。 帰る。 マスターの元へ。 わたしを『ティア』と呼んでくれる仲間たちの元へ。 そこがわたしの居場所だから。 □ 「ティアアアアアアアアァァァァーーッ!!」 瞬間、時が凍った。 ■ 感覚が戻ってきた刹那。 わたしの耳に届いたのは、一番大切な人の絶叫だった。 目の前にいるのはクロコダイル。 ハンマーを構えている。 現状を認識するよりも早く、身体が勝手に動き始める。 ……これが、雪華さんの言っていた、無意識の機動だろうか。 膝を曲げ、身体を前屈みに折り、右脚を後ろにスライドさせる。 クロコダイルの一撃が、わたしの頭上をすり抜ける。 右のうさ耳がちぎれ飛んだ。 わたしはホイールを急速回転させる。 その場で高速ターン。 身を屈めたままの体勢から、回転しながら身体を上げる。 クロコダイルは、ハンマーを振り抜いたところ。 わたしは、勢いのついた右脚で、クロコダイルの背中を蹴り飛ばした。 重いハンマーを振り、勢いのついていたクロコダイルの身体は、わたしの蹴りで加速され、ものすごい勢いで吹き飛んだ。 塔の中を、大きな激突音が響きわたる。 □ その瞬間、ゲーセンのバトルロンドコーナーは、確かに時間が止まっていた。 筐体の向こうの井山は、目を輝かせた笑い顔のまま静止していた。 ギャラリーは大型ディスプレイを見上げ、目を見開いたまま、あるいは顔を両手で隠したりして、止まっている。 隣にいる久住さんも大城も、俺の背後の少女四人組も動く気配はない。 何より俺が、身動きできずにいた。 その場を一瞬の沈黙が支配している。 時間の動きを示すのは。 ティアの頬を伝う、ひとしずくの涙。 ティアの頭は無事だ。 静寂の中、立ち尽くしている。 いつのまにか、右のうさ耳がちぎれている。 沈黙を破ったのは、クロコダイルだった。 『がああああぁぁっ!!』 土煙の中から、這いつくばっていた上半身を持ち上げている。 口から吐瀉物をまき散らしながら、叫んだ。 『なぜだっ! なぜ戻ってきた!?』 ティアは静かに答えた。 『……声が、聞こえたから』 ■ 「声が聞こえたから。 マスターが、わたしを呼んでくれる声が。 仲間が、わたしを呼んでくれる声が。 だから、わたしは戻ってこられたんです」 心は穏やかだった。 クロコダイルの声を聞いても。 視線の先にいるその姿を見ても。 今は怖いと思わない。 「ありえない! そんなもの、聞こえるものか!!」 「……あなたには分からない」 「なに……!?」 「お互いを大切に思う気持ち……絆があるから……聞こえたんです」 クロコダイルは、これ以上ない憤怒の形相でわたしを見た。 「絆だと……!? えらそうに、汚れた風俗の神姫風情が……!!」 「っ……!!」 瞬間、わたしは睨み返していた。 許さない。 風俗の神姫だからって、貶められる理由は何もない。 だって、わたしたちだって、幸せを求める気持ちは同じだから。 かつての仲間を、今も苦しんでいる仲間たちを、侮辱するのは許さない。 「そんな言葉……わたしは、もう、恐れません!!」 そう。 もうわたしは、自分の過去を恐れない。 いいえ、本当は、はじめから恐れることなんてなかった。 いま、確かなものが、わたしの中にあるから。 わたしは、小さいけれど、ただ一つの確かなものを、胸の前で握りしめる。 「だって、誇りがあるから……」 それは名前。 誰よりも大切な人がくれた、その名前こそ、わたしがわたしである証。 「わたしの名前は、ティア」 そして誇る。 「遠野貴樹の、武装神姫だから!!」 ◆ 歓声が爆発した。 ギャラリーしている人間も神姫も。 誰もが声を上げずにはいられなかった。 「届いた、届いたよ!」 美緒は、三人の仲間たちに抱きしめられる。 みんな喜びに声を上げている。 怖かった。届かないかも知れない、と思った。 でも届いた。 ティアが聞こえたと言ってくれたのだ。 仲間たちと抱き合いながら、美緒は安心と喜びで泣きじゃくる。 □ 「やったぜ……奇跡が起きたぜ、おい!!」 大城が俺の頭を掴んで揺さぶっている。 「帰ってきた……あなたの声、届いたわ、遠野くん!」 久住さんは俺の右腕を掴んできた。 二人の感触が、呆けていた俺を、現実に立ち返らせる。 周囲は歓声が響き、うるさいほどだ。 俺はまだ、ショックの抜けていない気持ちのまま、ヘッドセットをつまんだ。 「……ティア……?」 『はい、マスター』 いとも簡単に返ってくる返事。 その声が、俺の心に深く染み込んでくる。 言いたいことがたくさんあった。 聞きたいこともたくさんあった。 どこへ行っていたのか、誰かと会ったのか、どうしていたのか、俺の声は本当に届いていたのか、身体は大丈夫なのか、心は無事なのか…… だが、頭を一瞬で駆けめぐった言葉は、一言に集約された。 「……走れるか?」 『はい』 力強く。 ティアは何か吹っ切れたように、はっきりとした返事を返してくる。 「……俺なんかの……指示でも……走れるのか?」 『……俺なんか、っていうの、禁止です』 ティアに叱られた。 弱気になっているのは、俺の方か。 そして、続く言葉。 『マスターと一緒に戦えること、わたしの誇りです。 世界の誰よりも、マスターを信じています』 その言葉が俺の心を鷲掴みにした。 溢れ出したのは、闘志。 そう、今はまだ、バトルの真っ最中だ。 勝つ。 ティアのために、俺のために。 助けてくれた久住さんとミスティ、待っていてくれる大城と虎実。 手伝ってくれた四人の女の子たち、それから、海藤とアクア、高村と雪華、日暮店長と地走刑事……俺たちの仲間のために。 そして、井山との因縁を断ち切るために。 「ティア、お前がそう言ってくれるのなら……一緒に戦おう……勝ちに行くぞ!」 『はい、マスター!』 俺は立ち上がり、井山を睨む。 奴は顔を引きつらせていた。 いまや奴のアドバンテージなどないに等しい。 それどころか、ほぼ完全な勝利が手から滑り落ちていったのだ。 井山の顔からは、一切の余裕が消え失せていた 「行くぞ……井山……」 俺は、左手で、井山をまっすぐ指さした。 そこで初めて、手のひらに爪が食い込んで傷になっていることに気がついた。 俺は意に介さず、井山に言葉をぶつける。 「ここからが……本当の戦いだ!!」 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2868.html
前へ 「……それじゃあ今日はこれまで。 明日から授業だから、今日配った教科書を忘れないように。 それでは、起立」 その声でクラス全員が立ち上がる。 「礼」 先生の号令に合わせて、クラス全員がさようならと言う。 「あぁそうそう、図書室も開いてるから興味のある人は行ってみたらどう? それじゃあ私は行くわね、さようなら」 先生はそれだけ言うと、荷物をまとめてすぐに教室を出て行ってしまった。 登校初日はこれにて終了、ハヤテの周りはざわざわとしており、皆は高校での新しい友人層の開拓をしているようだ。 「……さて」 だがハヤテは荷物をまとめ、すぐに教室を出た。 階段の所の広間に行き、周りに誰もいないことを確認するとバッグを開き、ナギと対面する。 『終わったのか?』 「うん。 さあ、帰ろう」 『友達とかは作らないのか?』 「いいんだよ、友達なんて勝手にできるものだよ」 『そうか。 ならば近くの店に行こう、一緒にデータを受け取ろうじゃないか』 「そうだね……あ、そうだ。 その前にナギ、ちょっと付き合ってよ」 『え? 何だというのだ?』 「いいから」 ハヤテはそう言って階段を登る。 そして、先ほどと同じ場所にハヤテは来た。 『……屋上?』 「うん、さっきは見られなかったでしょ? だから、今度こそね」 『別に、私はそんな……』 「いいからいいから、ね」 ハヤテは再び屋上の扉を開く。 今度は誰もいないようだ、それを確認するとハヤテは中辺りまで歩く。 「ほら見てみてよ」 ナギをポケットから出して右手のひらに乗せ、ナギに景色を見せた。 「ね?」 『別に、見たくなど……』 そう言いつつ、ナギは景色を見る。 ナギは無言であったが、表情からその心中がうかがえた。 どうやら気に言ってもらえたようである。 「……どう? 少しは感動したんじゃない?」 『……べ、別に……そんなことは、だが……』 ナギは振り返り…… 『……その、悪くない気分だよ』 満面の笑顔でその言葉をハヤテに言った。 ハヤテはナギとここに来てよかったとその時に思った。 最もナギは勝手についてきただけであるのだが、それも手伝ってかハヤテは逆にもうナギとこの景色を見れないことが残念に思えた。 「……よかった、本当に」 だからナギとこの景色を、この高校の景色を見れたことを初めての思い出にしよう、そう思った。 『それじゃあ、そろそろどこかの店にでも寄って、データを受け取りに行こう。 ……学校楽しめよ? 大事な期間なのだからな?』 「え、うん、もちろん……」 ここで帰ったら、ナギとはもう学校に来れない。 ナギの性格からして、来たがることはないだろう。 自分も他の人に見つかるリスクを考えると、もうナギを連れて来たくはない。 そう考えると、もう少しだけここにいたいと思うハヤテだった。 ……その時。 (タタタタタッ!!!!) 「わっ!?」 銃声が聞こえる。 その音はおもちゃのように軽くはあったが、とても近くに聞こえた。 『な、なんなのだ!? なんなのだ!?』 『……侵入者発見』 何処からか、ナギの物ではない少女の声がする。 それと同じく、プロペラ音も聞こえた。 「ど、どこ!? 誰なの!?」 『……ここです』 その声は少し上の方から聞こえた。 ハヤテは声のした方を見る、そこには…… 『……こんにちは』 ナギと同じくらいに小さい、黒髪の少女がいた。 「え、あ、こんにちは……」 『ハヤテ、挨拶している場合か! コイツは私達に発砲してきたのだぞ!』 「でも、挨拶されちゃったし……それで、君は……」 ハヤテはその少女の関節部分を見る。 人形のような関節になっていることからして、この少女もナギと同じく神姫のようである。 「君も多分……神姫なんだよね?」 『……はい、戦闘機型、飛鳥です』 戦闘機型、そんなのもあるのかとハヤテは思った。 『……神姫に関する知識は希薄……ですが、なるほど』 「え?」 『……失礼、何でもありません。 ともかく、あなた達を神姫バトルで拘束します』 「ど、どうしてそうなるの!?」 『……屋上への侵入は校則違反です』 「え……そうなの?」 『……という訳で拘束します』 「え、えええっ!?」 『応戦するというのならば、神姫を構えてください』 「し、神姫を?」 神姫、もちろんハヤテにはナギしかいない。 「よ、よし、ナギ!」 『な、おいふざけるな、何故私が! 戦って何の意味があるというのだ!』 「……確かに」 屋上に入っただけで校則違反なのだから、抵抗するとさらに罰が増えそうだ、とハヤテは考えた。 「ええと、大人しく投降します。 職員室に行けばいいですか?」 ハヤテは両手を挙げながら言う。 『え……』 それに対し少女はかなり意外そうな表情をした。 「どうしました?」 『……い、いえ、ええと……』 少女は考え込むそぶりを見せる。 そして少女は何かを思いついたように言った。 『……と、投降した場合…… ええと、停学となりますが……』 「え、そうなの!?」 『そ、そこまで驚かれると……』 「じゃあ、抵抗した場合は?」 『ええと……わ、私に勝てば不問に付します?』 『そんなバカな話があるか! 付き合ってられん、帰るぞハヤテ!』 「そ、そうですよ、何で投降するって言ってるのに抵抗しなきゃいけないんですか! 灰原隊長なんですか? 降伏は無駄だ抵抗しろってことなんですか!?」 強気なナギにつられたのか、ハヤテも強気で口答えをする。 『そうだそうだ、それに私達は忙しいのだ。 今日も帰って二人でナイトメアパラダイスを進める予定だからな!』 「いや、それはもう20週はしたけどね……」 とっくに全ルート制覇しているのである。 『……な、ならば問答無用です!』 「え、な、なんでそうなる……!」 ハヤテが言い終わる前に少女は構える、すると…… 『はあっ!!』 そう言うと少女の身体が光に包まれる。 次の瞬間、その少女は巫女服をモチーフとしたような武装を身に纏っていた。 『……覚悟してください』 「……すごい」 その姿に思わず驚くハヤテ。 「もしかして、ナギもあれできるの?」 期待の目を向けてナギに言う。 『ん……まあできるが……』 ナギは疲れた顔で言う。 『やっぱり、抵抗しなければダメなのか?』 「みたいだね……まあ確かにいきなり停学は嫌だけど……」 『……はぁ、わかったよ』 ナギは少女に向けてそう言うと目を瞑り、だるそうに背伸びをして息を整えた。 『よく見ておくがいい! 武装ーーーーーー!! 神姫ーーーーーー!!』 目を開けてポーズをとり、ナギは高らかに叫ぶ。 すると桜花と同じようにナギは光で包まれ…… 『水が呼ぶ火が呼ぶ風が呼ぶ。 攻略情報キボンヌと私を呼ぶ! 武装神姫ナギ! ただいま参上なのだ!』 ナイトメアパラダイスと同じセリフで変身するナギ。 背中には白い二つの翼。 手に持つは白く、刃の部分はピンク色のハルバード、ファンシーな色のためか魔法少女の杖にも見える。 ピンク色のかわいらしい尻尾も生えて、足にはピンク色のプロテクターのような武装も装備されている。 その姿はまさにゲームの中の神姫ナギと同じ姿であり、変身したナギをハヤテはそれを「おぉ……」という目で見つめていた。 『どうだ!』 変身を終え、腕を組んでハヤテにドヤ顔を向けるナギ。 「すごい、すごいよ! だけど……」 『ん?』 「変身の時に一瞬裸になるんじゃないの……?」 ゲーム内で裸になるバンクが入るわけではないのだが、 主人公である「綾崎ハヤテ」に「変身の時に一瞬裸になるのは、はしたないですよ。」というセリフがある。 『なっ、逆にどこを見ておるのだ! それはゲームの中だけだぞ!』 そういうとナギはハヤテの眼前に飛び出し…… 『ハヤテのバカ!』 「いたっ、痛いよナギ!」 ポカポカとハヤテを叩く。 もちろん小さいのでそんなにダメージはないが。 「てて…… でも、動けるってことは武装が重くて歩けん、なんてことはないんだね?」 『ないよ。 あの生身の私なら無理だろうがな』 ゲーム内で戦闘時に毎回武装を纏うが毎回武装が重くて歩けん、という状態になるので結局毎回ハヤテ一人で戦うことに、というイベントが存在するのである。 「じゃあ、大丈夫だね……ナギってどんな風に戦えるの?」 『ん……そうだな。 大剣とナックルが得意だ、あと短銃も。 そしてそれ以外の飛び道具は苦手だな』 「へえ、意外……」 『確かに私らしくは無いかもな。 だが仕方ないことだ』 「え、どうして?」 『私の武装は言ってしまえば、夢魔型ヴァローナのリペイントなんだよ』 「……む、夢魔型?」 『あぁ、神姫に興味はないんだったな…… つまり、そういう神姫がいるのだ、見比べてみるといい』 『ヴァローナ型……』 ヴァローナ、という言葉を聞き、少女が会話に入る。 『……なるほど、その武装はどこかで見たと思ったら、ヴァローナでしたか。 私と同じ、FRONTLINE製の人気の高い神姫ですね』 FRONTLINE。ハヤテにとってはあまり聞きなれない言葉である。 「えっと、どこかの会社?」 『……神姫は各会社からさまざまな種類が出ていますから』 それを聞いて納得したが、ハヤテにはそれとは別の疑問がまだ一つ残っていた。 「じゃあなんでFRONTLINE製の神姫のリペイントがコナミのゲームに付属してるの?」 『あぁ……それはまあ、外注というやつだ。 タイアップだからといって新たに武装をデザインするのもさせるのも面倒だし、AIだけ監修して後は外注したんだろう、安く済むからな』 「はぁ……」 確かにコナミがやりそうではある。 「でも、よくFRONTLINEさんは引き受けてくれたね? FRONTLINEって事業内容は神姫がメインじゃないでしょ?」 『……コナミは武装神姫に関する全権限を握っていると一部で噂されているからな』 「えっ、コナミってただのゲーム会社じゃないの?」 『まあ、それは冗談だ。 ……そんなことよりも、向こうはお待ちかねのようだぞ?』 『……再三で悪いですが、準備できましたか? 実戦なら、あなたはとっくに死んでいますよ?』 「あっ、ご、ごめんなさい」 実戦って……そう思いながらハヤテは言う。 「それじゃあ、今度こそ大丈夫です!」 そう言った後、ハヤテはナギの方を見る。 「大丈夫だよね、ナギ?」 『あぁ、早く終わらせて帰るぞ!』 『……わかりました、それでは参ります』 「『『バトル!!』』」 『では、参ります!』 少女はどこからか銃を取り出した、彼女の得意武器の1つである。 『……かかってきてください!』 『いいだろう!私の武器はこれだ! バトルスタッフ、三千院仕様!』 前述の杖にも見えるハルバードである。 『ゆくぞ!』 ナギは勇ましく切り込む。 原作ではほぼ確実に見られない構図であろう。 『近づいてきましたか……ですが、甘いですね』 そう言うと、少女は高速で移動する。 『なっ、どこに……!?』 ナギはそのスピードに少女を見失ってしまった。 「ナギ、後ろ!」 『えっ!?』 『……もらいましたよ!』 少女はナギに向け、銃を乱射する。 『く!』 ナギはそれを回避、そしてすかさず少女へ突撃した。 『くらえぇえええええ!!!』 『……さっきより速い? ですが……』 間一髪少女はそれをかわす、そして…… 『はあっ!』 銃を鈍器として、ナギに向けて振り下ろした。 『負けるかぁ!』 ナギも負けじとバトルスタッフを思い切り振り回す。 『はっ!』 少女も銃でそれを防ぐ。 ハルバードと銃ではあるが、迫り合い状態になった。 『……中々ですね。 戦闘経験はおありですか?』 『……ない。 ただ、早く終わらせて、ハヤテとゲームの続きをやりたいだけだ』 『……なるほど、ですが……』 少女はナギの武器を弾き、ナギがバランスを崩す。 『うおっ!?』 『気分だけで勝てるほど、バトルは甘くありませんよ!』 その隙を逃さず、少女は銃を構え、それを乱射した。 「ナギっ!?」 『くっ!』 ナギは何発か受けてしまったものの、致命傷はかわすことに成功した。 態勢を立て直し、ハルバードを少女に向ける。 「わ、わ、えっと、えっと……」 そのスピードについていけず、ただ見ているだけのハヤテ。 『何をしているハヤテ、指示を出すのだ!』 「そ、そんなこと言われても……えっと」 『ハヤテは場の全てが見えているだろう! 私に伝えてくれればいいのだ!』 「そ、そうか……えっと」 ハヤテは場を見る。 と言っても、現状何もない平地で二人が至近距離で白兵戦をしているだけである。 近い場所な分、かなり見応えはあるが。 「……とりあえず、距離をとって!」 『ん、わかった!』 ナギは隙を見てバックステップを行った。 『とったぞ、それでどうするのだ?』 「……えっと、どうしよう」 『おい!?』 『……銃相手に距離を取ろうとするとは…… 本当に素人のようですね!』 『え、うあっ!?』 その隙を逃さない少女の銃弾が、ナギに命中する。 『ぐっ……』 「あぁ、ナギ!?」 『……命中確認。 あなた方の力はこんなものですか?』 『……く……おいハヤテ! 真面目に指示を出せ!』 「そ、そんなこと言われても……ひ、必殺技とかないの?」 『む……そういうの起動してから一度も使ったことないからな……』 『よそ見してる場合ですか!』 『うわっ!』 ナギに再び銃弾が襲い掛かる。 「と、とにかく、ダメ元でやってみようよ!」 『わ、わかった……行くぞ!』 ナギはバトルスタッフを振りながらバックステップで距離をとり。 『行くぞ、必殺! 獅子座流星ぐーん!』 獅子座流星群、ナギの必殺技の1つである。 バトルスタッフを捨て、少女に超スピードで飛び掛り右ストレートを放つ。 「わ、速いっ!?」 『ぐっ!?』 ナギの一撃が少女に入る。 いや、入ったかのように見えた。 『……驚きました』 間一髪、銃でガードしていたのである。 『な……!』 『相手が私でなかったら……あなた達の勝ちだったかもしれませんね!』 そう言い放ち、少女は銃でナギを弾いた。 『ぐあっ!?』 空中へ投げ出されるナギ。 そしてそれを待っていたかのように、少女は銃をナギに向けた。 『捉えた……もう逃がさない!!』 空中に飛ばされ、身動きが取れず、防御するためのバトルスタッフも投げてしまって使えないナギに、容赦ない銃弾の雨が襲い掛かる。 『うああああああああああっ!!』 「ナ、ナギーーーっ!!」 『……っ』 どうやら弾切れを起こしたようで、銃の乱射が終わる。 そしてナギはちょうどハヤテの足元へ落ちたのだった。 『うあっ、う……』 「な、ナギ……」 『……さすがにもう動けないでしょう。 諦めて投降してはどうですか?』 『う……ハヤテ……』 「ナギ……」 傷つくナギ。 それを見るハヤテには一つの思考が現れていた。 「もう十分……はじめてなのに頑張ったよ。 今回は負けを認めよう、停学にでもなんでもなるから、それで次に……」 『いやだ!』 そう言って、ナギは立ち上がった。 『私はまだやるぞ!』 「でも……」 『お前が諦めてどうする!』 「え……」 『お前は「ハヤテ」に憧れたと言っていたな! 私の執事である「ハヤテ」なら、どんなピンチだって諦めたりしないぞ! 槍でも鉄砲でも、できそこないのカニ野郎ポンコツロボだろうと、何が相手でも、絶対に助けてくれるのだ!』 「あ……」 『お前も私の執事になったのなら、私を助けろ! 私を全力で助けてくれよ!』 「……そうだった」 ハヤテが憧れる『ハヤテ』は。 ナギの執事である「ハヤテ」は。 絶対に何が相手でもお嬢様の期待に応え、何が何でもお嬢様をお助けする。 どんな無理難題にも応える。 絶対に諦めず、何をやらかしても、最後は最善の結果を出す。 「……わかったよ。 僕も、応えて見せる」 『……うむ。 それでいいのだ!』 『投降、しないのですね?』 「『!』」 『ならば……今度こそ止めです!』 少女は銃を構え、ナギに向かって乱射した。 「ナギ!」 『うむ!』 ナギはハヤテの考えを理解したのかバックステップで回避、再び距離をとった。 『……まだ動けるみたいですね。 ですが、銃相手に距離を取るのは愚策ですね、学ばなかったのですか?』 少女は銃を構える。 『……遊びはお終いですよ!』 『ほう、私が過ちを再び犯すと思っていたのか?』 「……僕は、ナギを助けられるほどの身体能力はない」 『だったのなら』 「だったら、別の方法でナギを助けて見せる」 『それは、戦局が見えていないと言っているようなものだぞ!』 少女の銃撃をバックステップでかわしつつ、先ほど投げたバトルスタッフを足で蹴り上げ、拾い上げた。 『……しまった、バトルスタッフの落ちた場所に……!?』 意外そうな顔をする、指示をするマスターがいないせいか、場に気を配れていなかったようだ。 「ハヤテのごとくとは違う、ハヤテが戦うんじゃなくて、ナギが戦う。 だったら、ナギの気持ちを理解するハヤテの気持ちになるんじゃない」 『それに私のことは、ハヤテが助けてくれる』 「ハヤテじゃなくて、ナギの気持ちになる。 そうやって、ナギの思考を完全に理解すればいいんだ」 『残念だが、遊び相手になるのは』 「文字通り……」 『貴様のほうだ!』 「ナギの……ごとく!!」 「『行くぞ!』」 ナギは拾い上げたバトルスタッフを構え、少女に飛び掛かる。 『……っ!? 今までで一番速い……!?』 少女はナギの攻撃をギリギリでかわす。 さっきと逆転し、ナギが攻め、少女が守りの体制に入った。 『これは一体……? ……雰囲気が……変わった!?』 少女は驚きの表情をする。 しかしハヤテとナギは完全にバトルに集中しており、相手が驚いている事に気づいてはいなかった。 「48の殺人技と……」 『52のサブミッションを連続でかけ……』 『え……え?』 『「地獄のローラーでお前をミンチにする!!」』 その台詞とともにナギは少女に再び飛び掛かった。 『なっ、速……! ぐっ!!』 今度はかわしきれず、ナギの一撃を銃で防御する。 『……さっきと……全く違う……!?』 「追撃だ!」 『おお!』 ナギはバトルスタッフを刃のある方を右手に持ったまま、左手を使い中央で分割させる。 このバトルスタッフは組み立て式であり、分離できるのである。 『隙だらけだぞっ!』 ナギは左手に持った、バトルスタッフの刃のない分割させた下部分を少女の脇腹に食らわせた。 『くっ!?』 『たあっ!』 少女の体勢が崩れ、防御が薄くなる。 『く……あっ……!!』 『はああっ!!』 ナギは少女が防御に使っていたその銃を足場に高く跳ぶ。 その跳んだ高さは立っているハヤテの顔くらいである。 『なっ……!?』 少女はナギが飛ぶときに両手に持ち防御していた銃に体重をかけられ、体勢を崩し仰向けに倒れる。 その眼には、太陽を背にして分割したバトルスタッフを両手に1つづつ持ち、自分に向かって真っすぐ降りてくるナギの姿が映っていた。 「これで……」 『止めだ!』 「『必殺・老人斬り!!』」 必殺老人斬り。 ナギの漫画に出てくるキャラクターの必殺技である。 ちなみにナギの画力が画力であったため、その技の全貌は不明。 『くっ!!』 少女は目を瞑り、トドメの一撃を受ける瞬間を待つしかなかった。 しかし、どれだけ待っても少女に衝撃が来ることはなかった。 『……?』 少女が目を開けると、バトルスタッフは少女の眼前で止まっていた。 『……私達の……』 「勝ち、だね」 『……』 少女は自らの敗北を悟り、ふぅ、とため息をついた。 『何故……トドメを刺さなかったのですか? 勿論、トドメを刺されたとしても壊れることはありませんが……』 「いやその、違ってると恥ずかしいんだけれども……」 ハヤテは自分の頬を指でなでながら言う。 「応戦するならば~とか、投降した場合停学になる~とか。 なんだか、わざと僕達と戦おうとしてたように思えるんだよね」 『というか、言動も支離滅裂だったしな。 戦闘前には無理にでも戦おうとしていたかと思えば、 戦闘中には投降したらどうだとか言っていたし……』 「それに、神姫が校則違反を取り締まるのってなんかおかしい気がするし……」 『最初の射撃も、わざと外したのだろう?』 『……』 少女は黙る。 図星のようであり、それを悟られたことに気付いたのか、少女は語り始めた。 『そこまで分かっているのならば……仕方ないですね』 そう言うと少女は後ろを向く。 『杏子(きょうこ)さん、もうお遊びはやめにしましょう』 「え、誰に向かって……?」 少女の向く方には、屋上の入口しかない。 『……! ハヤテ! 上だ!』 「え?」 ナギの言う通り、上を見る。 すると屋上入口の屋根の上に、人間の少女が腕を組んで立っていた。 茶髪をポニーテールにした、きりっとした目つきの鋭い少女である。 「……すまないな、二人共。 君達を試させてもらったよ」 「……」 何でそんなところに? ハヤテはそう思ったが、言うのをやめた。 『何故そんなところに立っているのだ?』 が、ナギはやめるという発想には至らなかったようである。 「おお、すまない」 その言葉と同時に、彼女は屋根から飛び降りる。 「え、ちょっ……」 ハヤテが止める間もなく、トン、という音を立てる床と彼女。 ハヤテの心配も露知らず、彼女は平然と着地した。 漫画的表現をすれば砂煙がそこら中に沢山舞っているであろう。 「話す時は、対等の高さで目を合わせるべきだな」 「……」 ハヤテは平然と着地したことに驚き、なにも言うことができなかった。 「見ていたぞ、今のバトル。 実に見事だった」 「あ、ええと、どうも……」 「すでに分かっているとは思うが、停学の話は全て嘘だ。 屋上に入る程度で停学になるなどはあり得ないさ」 「……ですよね、安心しました。 何となくわかってはいましたけど……でももし本当だったらどうしようかって思っちゃいましたよ」 「ははは、そんなバカな話は無いよ」 少女は笑いながらハヤテに告げる。 どうやら本当に全て仕組まれていたようである。 「桜花(おうか)も、疲れただろう。 休んでいていいぞ」 『……ありがとうございます』 桜花、それがこの少女の名前のようである。 『……少々失礼します』 桜花はペコリとお辞儀をした後、杏子の制服のポケットに潜った。 『……それにしても』 ポケットの中から勝者である二人を見上げる。 この時、少女の頭には少々疑問が浮かんでいたのである。 『……あんなに息の合った戦いが、最初からできるものなのでしょうか……? いや、それどころか……』 桜花が深く思案を巡らせているのに気付かず、杏子はハヤテたち二人に対して話を続けていた。 「そこで、君たちに…… 今のバトルの腕を見込んで話がある」 「えっ、僕達に……?」 『話……?』 「そうだ、君達でなければ頼めない」 その少女は一拍置いて口を開く。 そしてその口から出た言葉が、この物語の始まりを告げる一言であった。 「生徒会に、入ってみないか?」 第1話 「ナギのごとく!」完 次回「生徒会役員になる者共」 「私、生徒会長の補佐をしております、桜花と申します……」 ナギ『君も今日から、神姫マスターです!』
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/548.html
先頭ページへ 装備構成解説 マイティ超高速巡航装備 軽量飛行装備 機動戦闘装備 シエンATパイロットスーツ装備 クエンティン瞬間移動装置活用装備 マイティ 超高速巡航装備 頭部:ヘッドセンサー・アネーロ 胸部:FL012胸部アーマー 背部:リアウイングAAU7 エクステンドブースター×2 VLBNY1スラスター×2 ランディングギアAT3(補助スラスター付バージョン)×2 ポラーシュテルン・FATEシールド×2 VLNBY1増設ラジエーター VLBNY1携行小型タンク ぷちマスィーン・シロにゃん (GEモデルLC3レーザーライフル) 上腕部:VLNBY1腕部アーマー 下腕部:左/FL012ガードシールド、右/M4ライトセイバー 大腿部:VLNBY1脚部アーマー 脹脛部:VLNBY1収納ポケット 脛部:WFブーツ・タイプ・クレイグ 武装: スティレット短距離空対空ミサイル×4 カッツバルゲル長距離空対空ミサイル×2 STR6ミニガン、もしくはアルヴォPDW9 登場時期:「強敵」~「固執」、「ねここの飼い方、そのじゅうさん、後半」 対アラエル戦、クエンティン遭遇戦の序盤など、初期によく用いられた構成。まだ煮詰まっていない段階の、雛形とも呼べる構成が対ルーシー戦でも登場している。 ありったけの推進装備をリアウイングAAU7に取り付け、推力を一方向に向けることで絶大な加速と最高速度をたたき出すことができる。推進器の取り付け方には変遷があり、後になるほどパワーロスが少なくなる(写真は初期の配置)。装備も射程の長いものを中心に取りまとめ、特に最終段階で片翼に懸架していたLC3レーザーライフルの長時間照射は前方の目標掃討に効果が高い。 本装備はアーンヴァルのもともと持っている高速飛行性能をさらに特化させることに成功しているが、同時に欠点も倍化させてしまっている。小回りはもちろん利かず、片腕にライトセイバーを付けているとはいえ近接戦闘は原則ご法度。さらに推進設備を全てリアウイングに集中させているために、推進器がどれか一つでも損傷してしまうとたちまち全体バランスの低下を招き、戦闘力が大きく削がれてしまう。バトルにおいてどんなに性能の高い神姫といえど、一発も被弾せずに戦う、などというのはほとんど無理な話なのである。 良くも悪くもピーキーに着地する結果となり、これ以上の発展を見込めないと判断したマイティとマスターは、飛行能力というアーンヴァルの特性を生かしたまま、より戦闘に適応する装備構成を模索してゆくことになる。 試行錯誤の末、現在以下の二つの構成が登場している。なお、すべての装備にほぼ例外なく取り付けられているぷちマスィーン・シロにゃんは、主に装備の制御や索敵などを担ってマイティの負担を軽減する、いわばフライトオフィサーである。 軽量飛行装備 頭部:ヘッドセンサー・アネーロ(棘輪) 胸部:FL012胸部アーマー(争上衣、ぷちマスィーン・シロにゃん搭乗) 背部:白き翼 上腕部:VLBNY1収納ポケット(なし) 下腕部:M4ライトセイバー×2(FL012増設アーマー) 大腿部:ハグダンド・アーミーブレード(なし) 脛部:ランディングギアAT3(脚部機能停止のため排除) 武装: カロッテTMP (忍者刀・風花、ぷちマスィーン八体) ※( )内は「信念」における装備 登場時期:「固執」、「信念」、「ねここの飼い方、そのじゅうさん、後半」 もともと白き翼のテストのために考えられた構成で、翼の性能を最大限に生かすためかなりの軽装となっている。クエンティン遭遇戦においては「装備B」として、変更されたフィールドに対応するために登場した。また「信念」の対クエンティン戦においては、序盤はストラーフのリアユニット GAアーム、GAレッグを用いた陸戦特化装備であったが、戦闘中脚部機能が死んでしまったために脚部を丸ごと排除して本装備となった。その折もともとの素体装備は変更していないため、防御力重視の構成となっている。 軽快さを生かした格闘戦が得意であったが、性能的にどうしても中途半端にとどまってしまうくせがあり、メイン装備としてはほとんど使われていない。 機動戦闘装備 頭部:ヘッドセンサー・アネーロ 胸部:ホーリィアーマージャケット 背部:レインディアアームドユニット・タイプγ(基部) ハイパーエレクトロマグネティックランチャー×2 バインダー(リアウイングAAU7) ハグダンド・アーミーブレード ぷちマスィーン・シロにゃん 下腕部:M4ライトセイバー×2 脛部:ランディングギアAT3 FL012ガードシールド 推進器付主翼(リアウイングAAU7) 武装: アルヴォLP4ハンドガン カロッテP12 スティレット短距離空対空ミサイル×4(サイドボード供給により発射可能総数は60発以上) 登場時期:神姫たちの舞う空編 アーンヴァルの飛行特性を維持したまま、戦闘適応性を上げるために考案された構成。メインの推進力が背部ではなく、脚部に移行されているのが大きな特長。ヨーロッパの軍隊によく見られるデルタ翼戦闘機のようなシルエットとなっている。 超高速巡航装備と比べて推進力は低下したものの、全体的にコンパクトにまとまっている。そして主翼が360度回転可能で、マグネティックランチャーとバインダーが四つのスタビライザーの役目を果たし、デルタ翼でありながら「低速域における機動性と安定性が低い」という欠点をカバーできている。結果、戦闘機にはできない奇想天外なマニューバーが可能になっている。 なによりも、ホーリィアーマージャケットの小型スラスターやマグネティックランチャーの電磁浮遊推進システムなど、脚部以外のボディ全体に推進器を配することによって、多少の損傷でも戦闘が続行できる優秀なダメージコントロール性能を獲得できたことがこの装備の功績として大きい。 未知数の部分がまだまだ多いが、本編における今後の活躍が大いに期待できる装備構成である。 シエン ATパイロットスーツ装備 頭部:頭甲・咆皇 胸部:VLBNY1胸部アーマー 上腕部:VLBNY1腕部アーマー 下腕部:VLBNY1リストガード 腰部:KT36D1ドッグテイル 大腿部:VLBNY1脚部アーマー 脛部:WFブーツ・タイプ・クレイグ 武装: 十手 カロッテP12 モデルPHCハンドガン・ウズルイフ 登場時期:「バトリングクラブ」、神姫たちの舞う空編 非公式の「ボトムズin武装神姫バトル」において、クリムゾンヘッドに搭乗する際シエンがまとう装備。ヴァッフェシリーズのアーマーは衝撃吸収に長けながらかさばらないため、パイロットスーツとして最適であった。 緊急時の武装として十手や拳銃をコクピットに持ち込んでいる。 ちなみにクリムゾンヘッドの主武装はベルトリンク式に改造し装弾数を増やした咆莱一式である。 クエンティン 瞬間移動装置活用装備 頭部:フロストゥ・グフロートゥ 黒ぶちメガネ 胸部:胸甲・万武(ぷちマスィーン・壱号搭乗) 上腕部:フロストゥ・クレイン 下腕部:FL013スパイクアーマー01 腰部:VLBNY1腰部ベルト 大腿部:FL013スパイクアーマー02 脛部:WFブーツ・タイプ・クレイグ 武装: サイズ・オブ・ザ・グリムリーパー ぷちマスィーン・肆号 ぷちマスィーン・オレにゃん 登場時期:「固執」、「信念」 瞬間移動装置とは厳密には装置ではなく、バーチャルバトルアクセスシステムの隙を利用した高速移動方法であり、あたかも瞬間移動しているように見えるためそう呼ばれる。また本装置によって空中移動も可能である。クエンティンのオーナーである理音が考案しセカンドバーチャルバトルにて使用していた。本装備はその瞬間移動を最大限活用するための構成である。 頭部、上腕部のフロストゥブレード、および下腕部、大腿部のスパイクアーマーは可動し、四肢とあわせて動かすことで限定的ではあるが瞬間移動後のアクロバット機動や体勢安定のためのバインダーとして働く。 主武装がサイズ・オブ・ザ・グリムリーパーと二体のぷちマスィーンだけというやや心もとない内容だが、これは瞬間移動装置の構成上サイドボードに神姫本体を入れねばならないため、武装の容量が限られてしまうためである(開始時の武装を入れるメインボードは空であるが、アクセスポッドには神姫が入れられていないため、武装を入れてもシステム側から「装備不能」と判断されエラーが発生する。そのためメインボードは使用できない)。ただ、瞬間移動のアドバンテージが非常に大きいため、この武装だけで十分という見方もある。 その後どこからともなく(おそらくネットから)瞬間移動の方法が解析され数多くの神姫がこの方法を使用したが、ゲームバランス崩壊の兆しが見えたためにオフィシャル側によってバーチャルバトル空間アクセスルールが改正され、実質使用禁止となってしまった。 そのためクエンティンの本装備はおそらくもう見ることは無い。 先頭ページへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1277.html
俺はいきなり叫び、右手の一指し指で四人目の奴に指した。 叫んだ事によってオフィシャルバトル室にエコーが掛かる。 …ちょっと恥ずかしい。 「お、お前はあの時の青年。久しぶりだな」 四人目の奴は軽く笑いながら俺に答えた。 四人目…七瀬 都。 俺より年上の23歳の女。 職業は本屋。 数回会った事があり、最近では朝に行った本屋の常連客となっている俺。 ある意味ちょっと特殊な女だ。 特に口調が。 理由は知らんが、何故男口調? まぁ、俺が口出し出来る範囲じゃないので何も言わない。 ツッコミ入れたい所だが。 ていうか。 「青年は止めろって。前に名前を教えたろうが、天薙ってな」 「まあまあ、いいじゃないか青年よ」 「だから!…もういい、指摘するのも疲れた。あっ!!それと何で店を休業にしちっまったんだよ!!!」 「私はここに用事があったからな。店に誰もいなきゃ休業にするは当たり前だろ」 「…それもそうだな。で、用事てーのは?」 「いやそれがな、うちの妹とその友達と私でVIS社のテストに参加する事になってるんだ」 「テスト…は!まさか、相手はお前かよ!?」 「すると、天薙が私の相手か」 「あ。名前で呼んだ」 正直、驚愕した。 まさか相手が知り合いになるとはな。 でもこいつは良い機会だ。 一度闘ってみたかったんだよな。 ん? ちょっと待てよ。 確か七瀬の神姫は二人だった筈。 でも俺の方は四人。 神姫の人数が合わないじゃん。 「あぁ~、それについては大丈夫だ。うちの妹が一人と妹の友達が一人。これでこちらの神姫も四人なる」 「ふぅ~ん。オーナーは参対壱か。まぁいいや。にしても都に妹がいるとは初耳だな。へぇ~結構可愛いじゃないか」 「そうか、そいつは嬉しい事を聞いた。でも、それとこれは言っとかないといけないな」 七瀬は俺に近づき小声。 「ハルナに手を出したら、その時は覚悟しろよ」 ちょっと目を細めて声のトーン低くして言った。 ほぉ~ん、中々妹想いの姉だこと。 それに妹の名前は『ハルナ』て、いうんだ。 「大丈夫だ。俺はガキには興味ないんでね」 「何!?お前はうちの妹の愛くるしさと魅力に気づかないのか!」 「…あのさ。お前は俺と妹をくっつけたいのか、くっつけてほしくないのかいったいどっちなんだよ」 正直解らん。 でも都の妹さんは可愛いと思う。 もしあれで中学生じゃなきゃ口説いてたな。 あ、でも、口説いたら都に何されるか解ったもんじゃないし、俺の神姫達も嫉妬で機嫌を損ねる可能性が。 「はいはい。いつまでチチクリあってるの。今から今回の運用テストの説明するからよ~く、聞いておくのよ」 姉貴の声でオフィシャルバトル室はシーンとなる。 つーかぁ、チチクリあってねーよ。 さっきの会話で何でそうなる。 「今回のこのテストで使用する筐体は次世代に近い筐体である。最高4VS4まで可能な武装神姫チームバトルが可能。これが完成すれば我が社の売れ行きが向上…ゲフン、ゲフン」 姉貴はワザとらしく咳き込む。 態々こういう行為をするのは姉貴らいしいと言えば姉貴らしい。 まるで漫画みたいだ。 「でも完成には程遠い。ぶっちゃけ、ここに集まった四人のオーナーが闘い、その闘ったデータを追加すれば完成の近道になるでしょう」 うわ~、ぶっちゃけちゃったよ、姉貴の奴。 こんなんでいいのか~? いや、良くないだろ。 「で、この筐体の説明に入るね。この筐体はバーチャルの世界で戦ってもらうわ。オーナーは筐体の中に自分の神姫達を入れ、後は戦闘が始まるまで待つだけ。ここら辺は大抵同じです。あ、そうそう。オーナーが神姫に助言するのは有効で無制限です。実際には神姫達が闘いますがそれはホログラムで作られて神姫です。神姫のデータを筐体が読み込み、筐体が神姫の映像を作り出す。それによって本体の神姫は闘っておらず、データ化した神姫が闘いあうという事です。ですから神姫の本体には傷一つもつかずに戦闘を行う事ができます。お分かり頂けましたか?」 「はい、質問」 「何?タッちゃん」 「姉貴の説明がヘタクソ過ぎて解りません」 「…タッちゃんの今月のバイト代金半額に決定」 「うわー!?!?謝る!謝るからそれは許してくれ!!」 冗談を言うじゃなかった。 ちょっと後悔。 「他に質問はありませんか?…ないようですね。それではバトルを行うのは今から20分後です。それまでオーナー達は個別の部屋に入って作戦を練り直しても結構です。それとタッちゃん!遅刻は厳禁ですよ!!」 そこで俺にふるかい。 まぁどうでもいいや。 「さて、と。20分後にまたな、都」 「あぁ、楽しみにしてる」 「あ、そうそう。俺がアンタの妹に手を出す気は無いが、他の男に手を出されるのは時間の問題じゃないのか」 「なっ!?おい、それは一体どいう意味だ!」 「そのままの意味さ、妹の方は何とも思わないで男の方が片思いてな感じかな」 「はぁ~?それよりも男って誰だよ!」 「…灯台下暗しって言うのはこの事だな。まぁ自力で見つけな」 チラッとハルナの方に目線を置く。 でもすぐに目線を都に戻し一瞥して俺は個別の部屋に入った。 …。 ……。 ………。 天薙チーム。 部屋に入ると、よく芸能人が楽屋にいる時みたいな部屋だった。 神姫センターって一体…。 いや深くは考えるのは予想。 さっそく煙草に火をつけ椅子に座る。 「ねぇご主人様」 「ん?何だ??」 「いつのまに都さんと仲良くなったんですか?」 「都とか?いつの間にか…かな。それがどうした?」 「いえ、ただご主人様が他の女と楽しく喋っている所を見ると、ちゃっと妬けちゃって」 「嫉妬か?可愛い奴だな、お前」 アンジェラスに微笑すると頬を桃色に変化していく。 照れてるのか? でも嫉妬っか。 神姫が人間に嫉妬…。 ちょっとイヤだな。 おっと、それよりもこいつ等に大事な事を言っておかなきゃな。 「でだ、これからお前等に重要な話がある」 「何でしょうか、ご主人様?」 俺は二つずつ付けてるネックレスを外し、ネックレスの中身を一人づつ俺の神姫達に渡す。 「アニキー、これはいったい何?」 「まぁそう急くなクリナーレ。アンジェラスから順に言うから」 『GRADIUS?』 系統:大光銃剣? 重量:5 攻撃:0~900? 命中/HIT数:0/1 射程:0~∞? 必要:- 準備:0? 硬直:0? スタン:0~? ダウン:0~? スキル:- 神姫侵食度:100 備考:通常攻撃は近距離の場合は斬りつけ、遠距離は剣の先から螺旋模様線状レーザーのCYCLONE LASERを撃つ事ができる。 試作なので弱い。 『OPTION?』 系統:オプション? 重量:0? 防御:0? 対ダウン:0~∞? 対スタン:0~∞? 索敵:0~500 回避:∞? 機動:∞? 攻撃:0~900? 命中:0~900? 必要:- スキル:- 神姫侵食度:100 備考:通常攻撃は神姫と同じ攻撃をする。 ラグビーボールみたいな形状で赤く光っていて数は四個。 装備している神姫の周りをクルクルと回ったり編隊したりする。 試作なので弱い。 「次はクリナーレ」 『ネメシス?』 系統:重力剣? 重量:15 攻撃:1500 命中/HIT数:-100/4 射程:使用者の有視界 必要:- 準備:200 硬直:100 スタン:300 ダウン:300 スキル:- 神姫侵食度:150 備考:通常攻撃はGRAVITYが敵に接触した時にその場で重力空間を発生させ、その重力空間は爆発する。 人間の目から見て殴った瞬間に爆発するように見える。 中距離は二次元の球を作りだしその穴に向かって銃類の武器で攻撃、その攻撃は敵を中心にして間合い半径1メートルから20メートルの間で360度ランダムで撃った攻撃が敵に向かっていく、GRAVITY HOLEというものがある。 試作なので弱い。 「これはルーナ」 『沙羅曼蛇?』 系統:火炎灼剣? 重量:2 攻撃:800 命中/HIT数:100/10 射程:0~300 必要:- 準備:10 硬直:10 スタン:300 ダウン:0 スキル:- 神姫侵食度:120 備考:通常攻撃はある程度相手距離を保ちつつ、隙あらば一気に敵の懐に飛び込み近接攻撃する。 試作なので弱い。 「最後はパルカだ」 『ライフフォース?』 系統:光闇弓剣? 重量:8 攻撃:900 命中/HIT数:1000/2 射程:150~500 必要:- 準備:350 硬直:10 スタン:500 ダウン:50 スキル:- 神姫侵食度:150 備考:通常攻撃は普通にノーマルな弓で攻撃。 もしくは敵に近づいて攻撃。 試作なので弱い。 「説明は以上。違法改造武器だから使用するときに違和感を感じる筈だ。しかも、試作型でまだ正確な性能も解っていない。くれぐれも油断はするな。メイン武器はこれで決まり。後の武装はノーマルでいくぞ」 説明を一気に言い終えて。 ふぅ~喋り疲れた。 神姫達に説明していたおかげで最初に吸った煙草がもうなくなっていた。 『もったいないなぁ』と思いながら新しい煙草に火をつけ、ひと段落するのは心地良かった。 「ねぇねぇダーリン。この武器ってダーリンが作ったの?」 「んあ?あぁそうだ。お前等専用の武器だ」 「ボク等の専用武器!?ヤッター、嬉しいなぁー!」 「あ、姉さん!そんなに振りましては危ないですよ!!」 …やっぱり違法改造武器は止めた方がいいかもしれない。 いくら試作型でもそれなりの攻撃力はある。 真にあの武器を使ったら相手を破壊する攻撃力が出てしまう。 でも幸いな事に今回はバーチャルだ。 本体の神姫に攻撃する訳でもないので破壊は免れる。 なんだかあいつ等に罪悪感を感じるなぁ。 まぁこれも勝負だ。 やるからには本気でいくしかない! 一方、七瀬&八谷チーム
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2537.html
キズナのキセキ ACT1-14「謝ることさえ許されない」 ■ また。 また視界に映るすべてのものが灰色に見える。 わたしの目の前には、大きな鉄の扉。 人間の大人が一人で開けるのも大変そうな、重い扉。 その一番上にランプが赤く光っていて、それだけがわたしの目に色づいて見える。 ランプは文字を表示している。 『手術中』 ……マスターはさっき、この扉の奥へ連れ込まれた。 港の倉庫街での一戦の後。 すぐに救急車が呼ばれた。 大城さんがマスターについて救急車に乗ってくれて、わたしを病院まで一緒に連れて来てくれた。 病院に着いて、お医者様の診察を受け、間をおかずに手術することになった。 当然だった。 救急車の中でうつぶせにされたマスターの、傷ついた背中。そして左手。 わたしが見たって、普通じゃない傷つき方。 救急隊員の人たちが言ってた。 命に関わる、って。 すぐに治療が必要だ、って。 マスターとわたしたちが乗った救急車は、大きな総合病院にやってきた。 到着してすぐ、マスターは準備された手術室に入り、わたしたちは閉め出された。 この分厚い扉の向こう。 マスターが今どんな様子なのか、わたしには知る由もない。 わたしは力なく、そびえ立つ鉄の扉に触れる。 わたしはレッグパーツを装着したままで、左の足首は壊れたまま。 レッグパーツを治してくれる手は……マスターの手は傷ついていて……もしかして、もう治すことはかなわなかも知れない。 「……いや……」 それどころか、この鉄の扉の向こうから、マスターが無事に戻ってこないことだって……あるかも知れない。 だって、命に関わるって、言っていた。 そうしたら、どうなってしまうだろう? わたしはもうマスターの声を聞くことも、あの大好きな笑顔を見ることも出来ないままで。 ただ電池切れの時を待つだけ? それとも誰か他のマスターの神姫になってしまう? あるいはまたお店に戻されてしまう? いずれにしても、もうマスターに会えないのだとしたら。 「……いやです……マスター……」 わたしにとって、マスターは『世界』そのものだった。 マスターがいてくれたから、世界に色が付いた。 マスターがいてくれたから、絆を紡ぐことができた。 マスターがいてくれたから、わたしは……幸せだった。 その幸せを手放さなくてはならない。 不意に、その想像がリアルに胸に迫った。 灰色に染まった視界の影が濃くなったように思える。 心が何かに掴まれて、ぎゅっと握られたように、苦しく、痛い。 マスターがいなくなる。わたしにとって、この上ない恐怖だった。 「いやだあああぁぁ……!」 なぜあのとき、わたしは動かなかったの。 ストラーフの爪を、この身体が裂かれても、止めればよかった。 マグダレーナのミサイルを、脚が砕けても、身を呈して防げばよかった。 そうすれば、マスターが傷つくこともなかったのに! でも、そんな風に思ってももう遅い。マスターは大けがを負い、わたしはこうして不安に泣き叫ぶことしかできないでいる。 ◆ 「なんでこんなことになっちまうんだよ……」 泣き崩れるティアの肩を抱きながら、虎実は悔しげに呟く。 虎実には何も出来なかった。 現場に着いたときには、すべて終わっていたのだ。 虎実が見たのは、遠野がゆっくりと倒れるところだった。 その後、救急車が来るまでの間、半狂乱になったティアを抱きとめていた。 救急車の中で、遠野の胸ポケットにミスティがいることに気付いたのも虎実だった。 ミスティはずっと、電池切れのように眠ったまま動かなかった。ミスティが意識を取り戻したのは、遠野が手術室に入った後のことだ。 虎実は無力感に苛まれる。 ティアもミスティも、一番の友達であり、ライバルだと思っていた。 その友人たちが大ピンチの時に、虎実は何もしてやれなかった。 いま泣き続けるティアの肩を抱いているだけが精一杯。 もう、彼女の涙なんて見たくないというのに。 なんでティアはまた泣かなくてはならないのか。 「なんで、アタシは……こんなに役立たずなんだよ……!」 肝心なときに、いつも、何の役にも立てない。虎実にはそれが泣きたくなるほど悔しかった。 ティアの肩を抱きながら、唇を噛みしめる。 そんな虎実とティアを見て、ミスティもまた無力感に苛まれる。 貴樹の左手のケガは、ミスティに原因がある。 貴樹の胸ポケットにミスティがいなければ、貴樹自身が狙われることもなかったのだ。 親友であるティアにとって、マスターの貴樹がどんなに大切か、どんなに依存しているのか、よく知っている。 だからこそ、自分のせいで貴樹が傷ついたことに、責任を深く感じていた。 しかも、そのケガは、自分のマスターが別の神姫に命じて負わせた……いや、正確には、ミスティを破壊しようと攻撃してきたのだ。 神姫が自らのマスターに命を狙われる。 その事実はあまりにも悲しい。 自らの深い悲しみと重い責任の板挟みになり、ミスティは寄り添うティアと虎実を見ながら立ち尽くす。 「……ナナコ……どうすればいいっていうのよぉ……」 いつも自信たっぷりなミスティの、それは初めて口にした泣き言だった。 ◆ 悲嘆にくれる神姫たちを、大城大介は直視できずにいた。 ティアの泣き声、虎実の呟き、ミスティの嘆き。それらに耳をふさぐこともできず、ただ、手術室前の簡素なソファに腰掛けてうつむき、ただただ、手術が終わるのを待つしかなかった。 あのとき、パトカーを引き連れてきた大城は、予定の時間を大幅に超過していた。 理由は単純で、警察の説得に難儀したのである。 大城は、やんちゃはやめたと嘯いてはいるが、見た目はまったくヤンキーと変わらない。 時間を見計らい、近所の警察署のMMS犯罪担当のところにタレコミに行ったはいいが、逆に裏バトルの主催とのつながりを疑われ、弁明に時間を費やした。 なんとか警察を説得して、パトカーを出してもらったときには、すでに遠野との約束の時間をオーバーしていた。 現地に着くまで、遠野たちが無茶をしていないか心配していた。 心配は的中し、大城の予想を超える事態になっていた。 大急ぎで救急車を呼び、ティアとミスティを回収、遠野について救急車に乗り、病院へ向かう。 茫然自失になっている菜々子も心配ではあったが、そちらは彼女の祖母がいたので、全面的に任せることにした。 彼女たちは警察に連れて行かれたらしい。 病院に着くと、遠野はすぐに救急治療室に運ばれ、そしてすぐさま手術室に移された。 そして今、大城は手術室の前で、まんじりともせずに待っているというわけだった。 あのとき、一体何があったのか。 その場に居合わせた人物たちも神姫たちも、語る状況にない。 だから彼は、自分で見た状況で判断するしかなかった。 大城は大きな疑問を抱いている。 いくらリアルバトルだからといって、遠野が瀕死の重傷を負うなんて、おかしくはないか? バトルロンドは確かに面白くて奥深く、真剣に遊ぶゲームだ。 だが、所詮ゲームなのだ。 なぜそこにマスターの命のやりとりが加わってくるのか。 大城はどうしても納得できない。 (遠野が死んじまったら……俺は菜々子ちゃんを許せないかもしんねぇ……) 最後にはそんなところまで、考えが行き着いてしまう。 大城は暗い瞳のまま、悶々と考えを巡らせ続けていた。 そこに、足音が一つ聞こえてきた。 規則正しい靴音は、迷わず真っ直ぐに、この行き止まりの手術室前へと向かっている。 足音が大城のすぐそばで止まった。 うつむいた大城の視界に黒い革靴が目に入った。ビジネス向けの革靴とスラックスの裾。大人の男と思われるが、今こんなところに現れる人物に心当たりがない。 大城はゆっくりと顔を上げる。 暗い目で無愛想な表情をした大城は、さぞかしおっかない顔をしていたであろう。 しかし、その男性は少し眉をひそめただけだった。 「貴樹の友人にしては珍しいタイプのようだが……君は貴樹の友達かね?」 「……え?……ああ、奴とはマブダチだけどよ……あんたは?」 初対面の相手に随分と失礼な物言いだ。大城の返事も、ついぞんざいな口調になる。 スーツをきっちり着こなした、大人の男だった。年の頃は四○歳を越えているだろうか。ここにいるにはあまりに場違いな人物のように、大城には思えた。 いぶかしげな大城の視線を受け流し、男性は短く答えた。 「父親だ」 その答えに、大城は世にも間抜けな表情を返してしまった。 ◆ 倉庫街のリアルバトルから一晩が明け、昼近くなってようやく解放された。 久住菜々子は茫然自失の状態のままで、取り調べはもっぱら久住頼子が答えていた。 頼子は事件の詳細を適当にでっち上げた。 頼子と菜々子、遠野の三人で倉庫街を歩いていたところを、目出し帽をかぶった人物に襲われた。相手は神姫マスターで、武装神姫をけしかけてきた。 身の危険を感じ、仕方なく応戦した。 結果、神姫たちの被害は甚大、もうだめかと思ったその時、遠野が連絡した友人の大城が、警察を連れて来てくれたのだ。 相手の神姫マスターは泡を食って逃走した。 その神姫マスターに、頼子は面識がない。おそらく、菜々子も遠野も大城もないだろう。 単なる通り魔の神姫だったのだ。 あきらかに適当な作り話だったが、こちらは被害者だという主張を押し通した。 取り調べの刑事たちは当然疑っていた。 朝になって再開された取り調べの際に、頼子は仕方なく切り札を切った。 知り合いの刑事に連絡を入れたのだ。かつてMMSがらみの事件に首を突っ込んだときに、担当だった刑事は本庁のMMS公安勤務だった。 彼は快く身元引受人を引き受けてくれ、すぐに頼子が留置されている所轄の警察署までやってきてくれた。 すると、取り調べていた刑事たちは手のひらを返すような態度となり、頼子と菜々子は早々に釈放されたのだった。 「あんまり無茶言わんでください。こっちも忙しいんですよ」 「でも、これであのときの貸し借りはチャラってことでいいでしょ? たっちゃん」 「……これでチャラなら、お安いご用ですが、ね」 頼子は隣で缶コーヒーをすする、年若い刑事に微笑んだ。 地走達人は苦笑しながら首を振る。彼は警視庁MMS犯罪担当三課所属の刑事で、日々MMS関連の凶悪事件を追っている。 頼子と地走は、とある武装神姫がらみの事件で知り合った。ファーストリーグも二桁ランクの神姫マスターともなれば、事件の一つや二つ、巻き込まれるものである。 その時に頼子と三冬が活躍し、事件を解決した。地走とはその時以来の付き合いである。 「その呼び方をするのは、神姫屋やってる古い友人と、あなたくらいですよ」 「その堅い表情やめるといいわ。そしたら、たっちゃんて呼び名も似合うし、もてるから」 「やめてください」 地走刑事は苦笑した。 出会った頃から、頼子はこんな調子である。にこやかに笑いながら、難局を切り抜けるような女性だった。 その彼女が自分に助けを求めて来るというのは、よほどに差し迫った事態なのだろう。 まさか警察のやっかいになっているとは思わなかったが。 それでも、頼子が道にはずれることをするはずがない。地走にそう信じさせるほど、頼子への信頼は深かった。 だからこそ、彼女の「別のお願い」も素直に聞き届けてしまう。 しかし、一警察官として、堂々と機密情報を漏らすわけにはいかない。 「まあ、これは独り言なんですがね……」 地走刑事はとってつけたような前置きをして、話し出す。 「あの神姫……『狂乱の聖女』を秘密裏に追っかけてる組織があるんですよ」 「組織?」 「ええ。あんまり大手なもんで、そこが動くときには、うちもマークしてるんですが……」 「どこなの?」 「亀丸重工」 さすがの頼子も絶句する。 それは、国内でも屈指の財閥グループの、中心企業の名前だった。 ◆ 夕方。 菜々子は病院にいた。心療内科での診察が終わり、待合室のソファに所在なく座っている。 ここ数日の記憶は曖昧だった。 昨日の夕方、倉庫街でリアルバトルした理由も思い出せない。 はっきり覚えているのは、機械の目だけが露出したのっぺらぼうの神姫をなぜかミスティと思いこんでいたことだけ。 耳元で貴樹が叫んでくれたから、そこは覚えていた。 だが、その後のことはやはりよく覚えていない。 気が付いたときには取調室のドアが開いて、頼子さんが迎えに来てくれた。 そして、自分が今どこにいるかも分からぬまま、病院に連れてこられて、問診を受けていた。 一体、自分はどうしてしまったというのか。この数日、特に昨日の夕方、何があったのか。 ミスティはどうしているだろう? お姉さまは、貴樹は、今どうしているだろうか? チームのみんなや、『ポーラスター』の仲間たちは? 菜々子は漠然とそんなことを考えながら、夕暮れの赤い日差しの中で佇んでいた。 「……菜々子ちゃん、か……?」 野太い声が、菜々子の耳に届いた。 菜々子はゆっくりと声のした方に顔を上げる。 「……大城くん……みんな……」 菜々子はゆっくりと立ち上がる。 菜々子の視線の先で、大城は複雑な表情をしていた。 それから大城の背後には、シスターズの四人と、安藤智也の姿も見えた。 八重樫美緒は花束を抱いている。 誰かのお見舞い、だろうか。 そう思ったとき。 チームメイトの一団から、蓼科涼子が素早く抜け出した。 菜々子に向かって駆けてくる。 前に来た、と思った瞬間、菜々子の身体は衝撃を受けて、床に倒されていた。 右頬に熱い痛みがある。口の中に鉄の味が広がった。 「涼子!?」 「ちょっ……やめろ、蓼科っ!」 緊迫した声。 菜々子は振り向いて見上げる。 まるで鬼のような形相をした涼子を、安藤と大城が両脇から羽交い締めにしている。 菜々子は涼子に殴られた。武道をやっている涼子の打撃だ。一発殴られただけで転ばされるほどの威力があった。 だが、涼子はそれでもまだ納得が行かないようで、転んでいる菜々子にさらに襲いかかろうとして、仲間に押さえられている。 ……なぜ涼子ちゃんは、こんなに怒っているんだろう。 菜々子は漠然と思う。 涼子が辺りもはばからずに大声で怒鳴りつけた。 「あんた……なんてことしてくれたのよ! あの人の手はね! ティアのレッグパーツを作った手なのよ!? 涼姫の装備を作ってくれた手なのよ!? それを……リアルバトルで神姫けしかけて大ケガさせるなんて……腕が動かなくなるかも知れないのよ!? 信じられない!」 涼子の言葉に、菜々子は愕然とする。 思い出した。 あの時何をしたのか。 耳から聞こえる声に導かれて、ストラーフに抜き手を打たせた。 ミスティを破壊するために。 もし、遠野の左手がそれを阻んでいなければ。 ミスティもろとも、彼の心臓まで貫いていたはず。 つまり……自分の神姫と一緒に、愛する人の命さえ奪おうとした! いま初めて認識する事実は、菜々子にはあまりに重く、そして痛い。 うなだれて表情を見せない菜々子に、有紀が追い打ちをかける。 「なんでだよ……遠野さんは恋人だろ?……なのになんで、あんな女のいいなりになって……大事な人を傷つけて……あの女が、そんなに……わたしたちより大事かよ!」 違う。 菜々子は頭の中で否定する。 誰かより誰かの方が大事だなんて、ない。 お姉さまとチームのみんな、どっちが大切かなんて、比べられない。 菜々子にとっては、両方とも大切だった。 だが、それを言葉にできなかった。 いま、菜々子が何を言っても、嘘になってしまうから。 「……憧れてたのに!」 有紀が怒りに悲しみをにじませながら叫ぶ。 「尊敬していたのに……好きだったのに! 神姫を使って、好きな人を傷つけるなんて……最低だっ!」 有紀の言葉一つ一つが菜々子の心に突き刺さる。 有紀も涼子も、菜々子を慕ってくれるチームメイトだった。 菜々子は神姫マスターとしてもっともやってはならないことをしてしまったのだ。 彼女たちが裏切られたと思うのも当然だった。 「ご……ごめ……」 「謝らないで!」 反射的に口をついた謝罪は、涼子の怒声に遮られ、菜々子はびくり、と肩を震わせた。 涼子の声は、地の底から聞こえる呪詛のように響く。 「謝ったって許さない……絶対に許さない!!」 「ーーーーーっ!」 その言葉は菜々子の心を折るのに十分だった。 もう顔を上げることも、声を上げることさえ出来ない。 菜々子は床にはいつくばる以外に何も出来ない。 チームのみんなが、横を通り過ぎていく気配。 誰も声をかける者はいない。 ただ、背中に投げかけられる視線を感じた。 侮蔑、戸惑い、怒り。そうした感情がこもった視線が一瞬、菜々子の背中に突き刺さり、消えた。 足音が遠ざかる。 しかし、菜々子は、足音が消え去った後も、身じろぎ一つ出来なかった。 ◆ 夜の病院の待合室は静謐だった。 最小限の照明で薄暗く、ときどき、職員や見舞い客の気配がする。 昼間の活気は遠く、今は静かで穏やかで少し寒い。 その待合室の奥の隅。 菜々子はいつの間にか、奥まって目立たない位置にあった椅子に座り、身を隠すように背を丸めていた。 うつろな瞳からは、流れた雫の跡が頬へと続いている。 菜々子は思う。 わたしは間違っていたのだろうか。 だとしたら、何が間違っていたのか。 菜々子にとって、何が一番大切かと問われれば、それは「仲間」だった。 武装神姫を共に楽しむ仲間たち。 かつての『七星』、今のチーム・アクセルのメンバー、そして、遠征を続ける中で出会った神姫マスターたち。 菜々子にとって、誰も失いたくない、かけがえのない仲間だった。 その仲間たちの大切さ、仲間とともにいることの楽しさやかけがえのなさは、あおいが教えてくれたことだ。 だからこそ、菜々子は今も、あおいに仲間の輪の中にいてほしいと願う。 だが、仲間たちでそれを理解してくれる人はいない。 今の仲間と桐島あおい、どちらが大切なのか。 その問いを菜々子に投げかけたのは、先ほどの有紀だけではない。 『ポーラスター』の仲間たちにも、幾度となく尋ねられてきた。 その都度、菜々子は答える。 どちらも大切で比べようもない、と。ただ、あおいお姉さまが昔のように一緒にいてくれればいい、と。 それが菜々子の本心だった。 それは、とんでもないわがままだろうか? 途方もない高望みだろうか? そもそも、仲間か憧れの人か、どちらかを選び、片方を切り捨てなければならないものなのだろうか? だが、どちらも切り捨てられずにいるうちに、菜々子はどちらも失うことになってしまった。 どちらも大切にしてきたはずなのに、どうしてお姉さまも今の仲間たちも、そして愛する神姫さえも、わたしの元から去ってしまうのだろう? 愛した人さえも傷つけてしまうのだろう? わからない。 わたしは何か間違っていた? だとしたらどこで間違ったの? 何が間違っていたの? 結論のでない問いがループする。 暗い思考のループは、やがて渦を巻き、菜々子の心を少しずつ飲み込んでゆく。 開かれた瞳は何も見ておらず、光は徐々に失われてゆく。 ……もう、このまま死んでしまえばいい。 そんな言葉が心に浮かび始めた頃。 「……菜々子! こんなところにいたの? 捜したわよ」 聞き慣れた声が近寄ってくる。 頼子さん。ぼやけた意識の中で、祖母の名前を呼ぶ。 頼子は菜々子の隣に腰掛けた。 菜々子は、呟くように、言う。 「頼子さん……わたしは、まちがっていたの……?」 「え?」 「みんな……みんな……たいせつだったのに……わたしからはなれていくよ……」 「菜々子……」 頼子は菜々子の頭に腕を回し、そっと抱き寄せた。 菜々子は力なく、頼子の肩にもたれかかる。 「なんで……? わたしはだれもきずつけたくないのに……みんなでいっしょにいたいだけなのに……なんできずつくの? なんでいなくなってしまうの? いつも、いつも……」 修学旅行から帰った後も、あの暑い夏の公園でも、そして今も。 求め、手に入れたと思っても、菜々子の手から滑り落ちてしまう、かけがえのない宝物。 「菜々子は間違ってなんかいないわ」 その時の頼子の声は、限りなく優しかった。 「わたしは、菜々子を信じている。他の人がどんなに菜々子を責めても、わたしはあなたの味方よ」 「……どうして?」 「家族だから」 頼子は即答した。 菜々子の肩を掴む手に力がこもる。 「あなたはわたしの、たった一人の家族だから。 あなたがいてくれて、今日までどんなに心強かったことか……。 菜々子の両親が……雅人と早苗が亡くなったとき、わたしも悲しくて悲しくて……もう立ち直れないと思った。もう死んでもいいかも、って思ったの。 でもね、あなたがいたから、わたしは死ぬわけにはいかなかった。忘れ形見のこの子を守り、育てなくちゃって。しっかりしなくちゃって、ね。 菜々子がいてくれて、本当に嬉しかった。家族がいてくれて、本当にありがたい、そう思ったの。 だから、助けてくれたあなたを、わたしは決して見捨てたりしない。わたしはずっと、あなたのそばにいるわ」 頼子さんは知らない。 菜々子が、たとえわざとでないにしても、遠野の命を奪おうとしたことを。 それを知っても、頼子は菜々子を許せるだろうか。 でも今は、頼子の温もりが何よりも暖かくて。 「……よりこさん……ありがと……」 菜々子の礼は弱々しかった。 だが、頼子さんの言葉で、暗い思考の渦を止めることは出来た。 菜々子はまた立たなくてはならない。この後、どんなことが待っているとしても、ずっとここで、うずくまっているわけにはいかないのだ。 ほんの少しだけ、気力を取り戻せた。 頼子は優しく微笑むと、不意に立ち上がる。 「それじゃあ、行きましょう」 「……どこへ?」 「あなたを待っている人がいるのよ」 頼子に手を引かれ、菜々子はよろけるように立ち上がった。 思考も身体も、まだぎこちない。縮こまっていたせいか、節々が鈍く痛む。 菜々子はふらつきながら、頼子の後を追う。 エレベーターに乗り、長い廊下を歩いていくと、個室の病棟に入った。 扉のいくつかを通り過ぎ、たどりついた個室。 代わり映えのしない扉の前で、菜々子は立ちすくんだ。 さっき、頼子さんが言っていたことは、嘘だ。 味方なんかじゃない。 なぜ、いま、この時に、わたしをここに連れてくるの。 菜々子は恐怖に身をすくませ、顔を凍り付かせた。 扉の横、患者の名前の表札。 『遠野 貴樹』 と書かれていた。 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/598.html
「武装神姫のリン」 第17話 「花憐」 「ぶっふぇぇ!!!」 今日はリンの2回目の"誕生日"、それでリンにプレゼントに何がいいか聞いてみた。 その返答に対する俺の反応が上のモノだ。 思わず下品にも口に含んだものを吹き出してしまった… そのリンの返答っていうのが、 「子供が欲しいです」 うん、俺の反応は間違ってないはずだ。 茉莉も口をポカンと開けるばかりでティアもさすがに閉口している。 「…リン。判ってるよな? 子供って…」 「あの、私そんなに変なこと言いましたか? マスターが子供に相当するパーソナリティを持つモデルを買ってくれるって言ったじゃないですか。」 しばしの沈黙。そして… 「もう、亮輔のバカ!!!」 茉莉の思い切りのいいビンタを頂戴した俺であった…orz そして数時間後、俺たちはエルゴの店頭にいた。 頬を腫らしている俺を見て苦笑しながらも店長はかねてからおねがいしていた"頭身が低い素体"と"成長速度鈍化""子供思考"のCSCを棚から出している。 「ヘッドユニットはストラーフでいいのかな?」 素体とCSCを接続した店長が聞いてくる。 「はい、それでおねがいします。」 俺ではなく、リンが返答する。 「そういえば…ちょっと提案があるんだけど。」 「どうしたんですか?」 「あのね、今度から神姫の髪の色を変えるカスタムのサービスを始める予定なんだけど、この子にモニターっていうか、なんていうか試しにやってみないかい?」 「リン、どうする?」 「私が決めるんですか…じゃあお願いします。さすがに全く自分と同じ顔というのは気になるので」 「わかりました、で何色がいいのかな? 好きに選んでくれていいよ」 そういって髪の色のカタログやら見本をリンに渡す店長。 見ると茉莉やティアもカタログに見入って、話しをしている。 「ちょっと、亮輔君」 その隙をみて急に店長が俺に言い寄ってくる。なぜか俺だけに話したいことがあるらしいが… レジ裏にしゃがみこんだ俺と店長。そして店長は俺にものすごい小声でこう言ってきた。 「あれってリンちゃんのプレゼントだよね?」 「そうですけど、子供が欲しい…自分で世話をするからそういう子供に相当する神姫が欲しいって」 「たぶん前代未聞だよ、母親になる神姫だなんて…まあそれは置いといて。もう1個プレゼントになりそうなものが今、ウチにあるんだけど、どうかな?」 「物を見せてくれないとなんだかわからないんですが…」 「ふれあいツール"赤ずきんちゃんご用心"って言えばわかるだろう?」 「プ…ッ(必死に吹き出しそうになるのを押さえる音)」 「あれがね~幸運にも手に入ったんだよ。結構競争率高いらしいんだけどね。」 「で、俺とリンにですか?」 「うん、リンちゃんにもそろそろ"ホンモノ"の感触を知ってほしくないかい?」 俺の脳裏にピンクな景色が一瞬広がる 「…ホントに商売上手ですね、店長。」 「じゃあ買う?」 「ハイ。」 「じゃあがんばってね」 「あの、それっていうのはどういう意味で?」 「さあ~どっちだろうw」 そんな感じで商談が成立した。 そして何も無かったかのようにリンたちの所に戻る。さっきまでのことは忘れよう、ウン。 「決まったか?リン」 「あっ、マスター。いちおう決まったといえばそうなんですが…」 「じゃあ言ってみろ」 「黒はイヤですか?」 「なんで?リンが好きならそうすればいいだろ。」 「だって、マスターって金髪好きそうなんで…」 そうして茉莉の方を見るリン。 くそ、そんなにカワイイ表情しないでくれ…さっき想像したことが再び頭の中に浮かんでくるのをかき消して返答する。 「はは、そんなこと気にするなよ、もし俺とリンの子っていうなら黒でいいんじゃないか?」 「じゃあそれで、店長。黒でおねがいします」 「たしかに承りました。処理に5分ぐらい掛かるから待っててくれるかな?」 「はい、じゃあその間に料金払っときますよ、で合計でいくらですか?」 「うん…基本のセット料金に素体の特注のライセンス料、黒髪は特別料金だけど今回は割り引きで…しめて…この値段だね。」 まあ予想通り"それっぽい名目"で書かれた料金票を見る。 うん、この値段なら予算の範囲内だ、微妙に余計な費用が加算されたりはするが…今回はジェニーさんのレジを通すわけには行かなかった。 レジと接続した状態のジェニーさんにはそういう偽装は通用しないことは以前のことで知っていた。 だからこそ、店長に直接料金を支払うのだ。物はあとで取りにいくとしてもこれだけは回避しなければならなかった。 そうして支払いを済ませて待つこと数分。艶やかな黒髪のストラーフが俺たちの前に横たわっている。 CSCは先ほどのもに加え、"おしゃれ"を選択。これはリンの提案だった。 CSCおよび素体、ヘッドユニットのチェック完了。リンの娘である神姫が起動し、ゆっくりと瞳が開かれた。 「…う~ん、眠ぃ…」 第一声がコレだった。やっぱりCSCの特性が関係してるんだろう。とりあえず俺がまずはマスター登録をする。 「藤堂 亮輔をマスターとして登録しましたぁ~で呼びかたはどうしますかぁ?」 「お父さん、だ。」 「……お父さん…お父さんですねぇ~判りましたぁ…むにゃむにゃ…」 今にも寝そうな彼女を必死に起こして言う。 「まだ名前をあげてないだろ、キミの名前は花憐だ」 「花憐…カワイイ名前です~こんな名前をもらえて花憐はうれしいです。」 名前をもらえたことがいい刺激だったのか、眠そうだった花憐の目に光が宿ったように感じた。言葉遣いも安定してきた。 「それは良かった、それで…この子がキミのお母さんのリンだ。お母さんの言うことはちゃんと聞くんだぞ~」 「はい~わかりました」 そうして 花憐はくるっと回転して、リンに向き合う。 「お母さん よろしくおねがいします。」 「ええ、花憐」 リンは花憐を抱きしめる。 リンはとてもうれしそうで、涙さえ浮かべてた。 花憐のほうもなんだか安心したような表情で。 こうしてウチに新しい家族。俺とリンの"娘"の花憐が加わった。 これでウチは以前にもまして明るくなるだろう。この幸せを大切にしていきたい。そう俺は思った。 ~燐の18「アキバ博士登場」~